| 〈サービス☆ルバム〉 「ルバムは近未来的に尖った金属のカカシという感じだったわ」 彼女は言った。僕はうなずき、腕を組み替えた。 「彼は……、性別はわからないけど、多分男なんだと思うので、彼って言うけど。とにかくルバムはそこに立っていたのよ。そして、彼は私の手にもたれたコインを、その尖った三本の指でつまむと、胸元にある穴に入れたの。私はその様子をあっけに取られて見ていたわ。だってあんなのって今まで見たことのない存在だったのですもの。あっけにとられるわよね」 彼女は有名なイラストレーターだった。昔、僕と彼女は高校の同級生だった。そして、少しの間だけ、恋人同士だった。 彼女はクライアントに作品を届け、その事務所から出てきたところ、昼休みをとりに外に出た僕とばったり会った。彼女のクライアントのオフィスと、僕が勤めている会社のオフィスは同じビルの中にあったのだ。彼女はビルの一階にある洒落たカフェで僕にルバムという存在について話してくれた。 彼女がルバムに会ったのは、RRR(トリプルR)ダイナーという店だった。 その店にはテーブルに占いのマシンのように見える機械があった。百円玉をいれ、レバーを押すとなにやらが書かれた紙が出てくるやつだ。彼女は占いには興味がなかった。だから、その店の常連であるにもかかわらず、そのマシンに触れたことはなかった。だが、ある日、夜遅くに……それは彼女にとって特別な夜(その中身は教えてはくれなかった。とにかく、特別な夜だ。日常的に日々繰り返されている時間とは異なる夜ということだけを彼女は強調した) そんな夜に彼女は少しだけ悲しい気分で店に入り、百円玉を機械に入れ、レバーを押した。 出てきたのは占いの紙ではなかった。その代わりに金色のコインが出てきた。表にゆがんだ太陽のような絵が彫られ、裏にRUBAMという文字が円を描くようにして書かれていた。 彼女はそのコインを手に、これはなんだろう? と首をひねった。そして、その時、自分の背後に何かが立っている気配を感じた。彼女に言わせるとそれがルバムだった。 「それで、ルバムはどうしたの?」 僕は聞いた。 「ルバムは手に持った鏡のように光るトレーに乗っていたこんな物体を私にくれたわ」 彼女は僕の手帳に絵を書いた。それは溶けた万年筆という感じの物体だった。 「今もそれは持っているの?」 彼女は首を横に振った。 「無くしてしまったわ。というか盗まれたのよ。ハンドバッグにいれておいたんだけど、それごと盗まれたわ」 「それは、残念だね」 僕は言った。 「そう、残念」と彼女は言った。そして、笑った。懐かしい笑い顔だった。 「それは、なんだったんだと思う? つまり、ルバムやルバムのくれたものなんだけど」 僕は聞いた。彼女は首をかしげ、少しの間考えていた。カフェのカウンターで料理を注文する客を見、天井からつるされた平たいUFOのようなランプシェードを見ていた。それから、僕を見て言った。 「わからない、わからないわね。そうでしょう? これは難しいわよ」 僕はうなずいた。僕らはそれからもしばらくルバムについて話した後、店を出た。彼女はビルの外に出、僕はエレベータに乗り、自分の会社へ向かった。エレベータの中は静かな機械音に包まれていた。 ルバムを作る工場がある。そこでは色々なオイルや埃にまみれて腕の太い男達がルバムを作っている。太陽が沈む頃、工場の四角い窓からオレンジ色の光が差し込む頃、ルバムの腕や足、頭や胴体を作り上げるための機械のスイッチが一つずつ切られていく。大都会の騒々しい営みにも似た激しい創造の音を出す機械は眠りにつく。電灯が消され、代わりに街灯がつく。工場の階段に座り、工夫は煙草を仲間と分け合い、沈みゆく太陽を見ながらしばらく煙を吐き、会話を交わす。陽が沈み、辺りが夕闇にとらわれると、男達は散り散りになって帰路につく。 少しだけ寂しい気分で、億劫だけれど、明日がまた来ることに少なくない安心感を持って家に帰る。街灯に照らされできた男たちの影は、ぼんやりとした輪郭を持って地面に描かれている。 |
了