| 〈オーロラふりかけ〉 五月のある日、近所のスーパーに行くとオーロラふりかけのポスターが貼られていた。それは綺麗なプリントのポスターで、大きな字でオーロラふりかけ八月新発売! と書かれていた。僕はしばらくそのポスターの前でつったってそれを見ていた。 オーロラふりかけ? 僕は何がオーロラなのだろう、と思った。 考えられることはいくつかある。まずはふりかけをつくった会社がオーロラという名前であるということだ。これは納得する。次に考えられるのが単純に中身とは関係なくインパクトをもった商品名をつけただけ、という理由だ。こういうことは結構ある。インパクトのある商品名で客の目をひかせて、買わせるのだ。競争相手が多い業界では中身の勝負よりもパッケージングに力を入れて商品を売るのだ。これもまた納得ができる。最後に考えられるのはオーロラ味のふりかけであるという意味でオーロラふりかけと名前がついているのだ。のりたまとかしゃけめんたいみたいなものだ。だが、ものはオーロラだ。のりたまやしゃけめんたいとは違う。 オーロラ味ってなんだ? 僕はそのポスターをくまなく見たが、そこにはなぜ商品名がオーロラなのかは書かれていなかった。ふりかけのパッケージとオーロラふりかけ八月新発売! としか書かれていない。 僕は結局その日は家に帰った。店員に聞けばオーロラふりかけの名前の理由はわかりそうだったが、なんにせよ八月になればわかることだと思ったので聞かなかった。僕は八月になるのを待った。 そして季節は変わり、じめじめとした梅雨があけると待望の八月がやってきた。 「だけど、そのスーパーにはオーロラふりかけはおいてないんだ。もう八月も終わるっていうのに。ポスターもはがされているし、店員に聞いてもそういえばどうなったんでしょうって答えしか返ってこないんだ」 僕は言った。彼女は相変わらず、膝をかかえ、うつむき気味に白波のたつ夜の海を見ていた。 僕らは二十人という大人数で伊豆に来ていた。男女比は一対一であり、みんな高校最後の夏に思い出を作ろうとやっきになっていた。僕は一年ほど前から気になっていた、今隣に座り海を見つめる彼女となんとか友達以上の関係になりたいと思っていた。彼女は綺麗な長い髪をもつ美少女で、時折見せる深い陰のある表情に僕は神秘的な魅力を感じていた。彼女は一学期が終わるまではそれでも比較的明るく快活な子であったのだが、季節が夏にはいるととたんに表情が暗くなった。その理由は僕にはわからなかったが、せっかく今こうして二人きりになれたので僕はおもしろい話をして、なんとか彼女から笑顔を取り戻そうと思ったのだ。そういうわけで僕は彼女にオーロラふりかけという奇天烈なふりかけの話をした。だが、彼女は僕の話を聞いても笑わなかった。笑わないどころか少し不機嫌になったようでさえあった。僕はなんとかしなければいけないと思った。 「あの、ここ最近元気がないみたいだけど、なんかあったの?」 僕は聞いた。彼女は黙っていた。だが、やがてぼそぼそっとつぶやくようにして言った。 「父が亡くなったのよ」 僕は少しあぜんとした。全然知らなかった。学校の先生は知っているのかもしれないが、わざわざクラスのみんなには言わなかったのだ。だから、僕は彼女の父親が亡くなったことなんて全く知らなかった。僕は彼女の表情が暗い理由がはっきりとわかった。 「あ、ええと、知らなかったよ。そうだったんだ」 僕は言った。彼女はええ、とうなずいた。 「その、病気かなんかだったのかな?」 僕はそう言うことを聞いていいのかどうかわからなかったが、彼女に関してのことは少しでも知りたかったので聞いた。彼女は首を横に振った。 「じゃあ、事故?」 彼女は相変わらず静かな黒い海を見ながら首を横に振った。 僕はそれ以上何を言っていいのかわからなかった。それでもなんとか自分を奮い立たせて言った。 「じゃあ、なんで?」 彼女の表情が眉をよせ、悲痛な顔になった。まるでひどい戦場に降り立った新人の看護婦のような表情だ。そして言った。彼女は唇を震わせ、絞り出すような声でこう言った。 「オーロラ、がっ……」 |
了