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 次の土曜日、つまり僕の誕生日。天候は快晴。気温も湿度も文句がなかった。
 だが、小人達が本当に現れるのかと思うと僕の心は晴れなかった。
 僕の予定では、誕生会は午後三時から行う予定になっていた。場所は僕の部屋ではない。僕が部屋を借りているこのアパートの大家さんの家で行うことになっていた(僕が勝手に決めた)。
 大家さんは僕の小学校時代の同級生で、職場が同じだったこともある女友達Tの父親なのだ。
 僕は昔コンピューターグラフィックスの専門学校で講師をしていた(現在は独立してフリーのデザイナー)。Tはそのときのアシスタントとして学校に雇われていた。最初は彼女が僕と同じ小学校だとは知らなかった。だが、ある日、彼女が学校で履歴書を書いていたのを見た。Tは雇われてから履歴書を書いていた。
 そこに書かれている住所は昔の僕の実家の近所だった。また、年齢も僕と同じだった。僕はTにどこの小学校に行っていたのか聞いた。Tが答えた小学校の名前は僕が二年生まで通っていた小学校と同じだった。三年生の時に僕は引っ越したので二年しか通っていないのだが、とにかく同じ小学校だった。
 当時のクラスは違ったために小学校時代には互いに面識は無かった。だが、いろいろ話してみると共通の友人が多くいることがわかった。
 Tは変わった人で、女性であるにもかかわらず、かわいい、もしくは綺麗な女性に目がない。そして、コンピューターグラフィックスを仕事として選ぶくらいなので無茶な生活リズムでよく体をこわす。
 徹夜明けの体でスノーボードに行き、体内の電池が切れるまで滑りまくると夕方から死んだように眠るのだ。スノーボードには専門学校のかわいい、もしくは綺麗な生徒を連れて行く(だから、徹夜明けであるにも関わらず死ぬ気で彼女は行くのだ、行かない訳にはいかないのだ)。
 そんな無茶な人生を送る彼女の家はコンビニエンスストアの運営とアパート経営をしていた。
 三階立てのアパートの一階がコンビニエンスストアになっており、二階と三階がアパートになっている。
 Tの家族もそのうちの一部を自宅として使っていた。もちろん賃貸用の部屋よりは広い作りになっている。僕の予想では十三人位誕生会に集まるので、僕の部屋では少し狭い。だから、僕は誕生会にTの家を借りることにした。
 このアパートには昔僕とTのクラスの生徒さんだったSも住んでいた。SはTのお気に入りの女性の生徒さんで、アパートの部屋が空いたところで、実家を出て部屋を探している彼女にTが格安で貸したのだ。なんだか不純なアメリカのドラマみたいだ。
 ちなみに専門学校を辞めたTは自宅でデザイン事務所を開いており、そこで働くTの助手はやはり専門学校の生徒さんでTのお気に入りだったIという女の子だった。
 その事務所は人の出入りが激しく(文字通りの意味、事務所に入る辞めるではなく、物理的に人がいるいないと言う意味)、いつも四、五人の人間がいる。男も女も大体がTのお気に入りの人間だ。
 要するにこのアパートはTのハーレムなのだ。だが、本人にはその自覚がないのだ。そして、あいかわらずTの生活は乱れまくっているのだ。
 部屋の鍵はいつも開いているし、彼女が飼っているメルというミニチュアダックスフントは吠えまくるし、夜の十一時位になると夕飯の支度でなんだかとても変な匂いが漂ってくるのだ。
 そんなTのことなので、僕は勝手に誕生会の会場として彼女の家を使わせてもらうことにした。
 十日ほど前、僕は制作した誕生会の招待状兼予定表及び依頼書を持ってTの家に行った。
 Tは打ち合わせに出ていていなかったため、事務所にいたIにそれを渡した。後日、Tに電話をして部屋を使わせてもらえるか聞いた。Tは当然のごとくOKと言った。
 だから、予定通りなら、僕の聖誕祭は午後三時からTの家で行われるはずなのだ。

 僕はカレーの材料を買いに近くのスーパーに行った。僕が勝手に決めた予定では、TやSもカレーを作ることになっている。
 確認はしてないけど多分彼女達はそれなりの個性的なカレーを作るはずである。基本的に今日はカレーパーティーなのだ。だが、そのほかにも料理はたくさん作る。
 欠食児童が多く集まるTの家で行われるパーティーは、今までの経験から言うとあっという間に料理が食べ尽くされ、なんだか冬の休日のようにすぐに夜が来て寂しくなってしまうのだ。
 だから、今回は凄くいっぱいいろんな料理を作ることにした。それに小人のこともあった。彼らが七人来るとしたら、かなりの量の料理を作らないといけない。
 僕は大量の食材を買って帰り、僕流のカレー制作に取りかかった。Tのアパートはいろいろなカレーの匂いが(カレーらしきものの匂いが)漂っていた。少し早めの桜がちらほらと咲いている春の休日にはかなりそぐわなかった。他のアパートの住民はまた大家が変なことをしている、と思っているだろう。
 Tには小人のことは言っていなかった。言ったところで信じてもらえるとは思えなかったし、本当に彼らが来るかどうかもわからなかったからだ。来たら来たでそのときどうにかすればいいと思っていた。それにTなら小人とも何とか上手くやってくれそうだった。
 あらかた料理ができあがるとそれらを持ってTの家に行った。家に行った、とはいえ、僕の部屋の隣がTの家のリビングになっており、そこに勝手口がついているので感覚としては大きな家の中で部屋を移動したような感じがある。
 リビングにはTとIそれにIの妹とメルがいた。メルは僕の姿を見つけると狂ったように走り回り吠えまくった。
 僕は鍋を机の上に置くとメルをなでようとした。メルは意味不明のうめき声をあげながら腹を上にして寝ころび、私を撫でてくれ攻撃をした。
 僕がうっすらとしたピンク色のメルの腹部を撫でると、メルはぐるぐると喉を鳴らし、僕の右手の親指をがじがじと噛んだ。
 時計を見ると午後二時になろうとしていた。
 T達はケーキを焼き始めていた。僕らはケーキも自分たちで作るのだ。
 今までは最大で二個のバースデーケーキを作ったが、今回は人数が多いので三個作ることにした。
 一つずつしかオーブンに入らないので早めに作らないと間に合わない。僕は生クリームを作るためにボールに入った液体の生クリームの元を手持ちミキサーで泡立て始めた。
 最初とろとろとした液体であった生クリームの元は次第にその姿を柔らかい固体へと変えていく。まるで自分が魔術師にでもなったような気がした。
 ある瞬間から突然液体の生クリームの元は弾力のある半固体の生クリームへと変身するのだ。それは本当に劇的な変化だと思う。
 僕は家にあった自動餅つき機を思い出した。
 ある日押入を掃除していた母親が見つけた物だった。
 見つけたときは夏だったので餅を食べる気はせず、冬になるまで押入で寝かせた。
 そして、待望の冬が来た。
 僕らは餅米を買ってふかし、自動餅つき機を押入から出し、それを洗った。
 餅米がふかし終わる頃、僕は自動餅つき機を組立始めた。それは大きなジューサーのような見た目であった。
 餅米を入れるお釜にタイマーがついているものだ。
 組立始めた僕はふと部品が足りないような気がした。お釜の底につけるべき羽と言えばいいのだろうか、くるくると回る部品が存在しないことに気がついたのだ。
 いや、確かにそこにささる長さ十センチメートルくらいの棒はあった。
 本当になんの変哲もない棒だ。多少ギザギザが入っているくらいで、こんな物で餅米をつくことができるとは思えなかった。
 その棒をお釜の底にさし、スイッチを入れると棒はものすごい勢いでくるくると回った。確かにこの棒はここにささるべきであったようだ。だが、この棒だけでは到底事を上手くこなせるとは思えなかった。
 要するに餅をつくという動作とはかけ離れたものに見えた。
 この棒にさらに何か付属の物がついて、初めて弾力のない固体の集まりである餅米は弾力のある柔らかい餅へと変化するように思えた。僕と母親は押入の中や、自動餅つき機が入っていた箱の中に見落とした部品がないかくまなく探した。
 だが、部品は無かった。
 餅米はふかし終わった。仕方がないので僕らはその棒をさしただけのお釜に餅米を入れた。
 餅米は猛烈に熱く、あのどくとくのねとつく匂いをあたりに発散させながらお釜の中に収まった。僕は自動餅つき機のスイッチをいれた。
 棒は餅米の中でむなしく回っていた。
 棒は垂直に餅米の中にささっている状態なので周りの餅は押されもつぶされもしないのだ。
 僕はやはり部品が足りないんだと思った。
 母親が棒の周りの餅米を高速回転する棒に向かって押していた。すると、さすがに多少の圧力がかけられたのか少し餅米がつぶれた。
 だが、ほんの少しだ。
 餅米はもの凄く熱い物なのでとてもではないが手でつぶすことはできない。
 あち、あち、と言いながら少しずつ押すしかないのだ。しばらくするともう少し餅米がつぶれ、多少は餅のような物が生成されてきた。このまま押しつづければそれなりに餅になりそうだった。
 だが、人間がこんなに苦労するのでは自動餅つき機の意味はない。
 僕は母親と、やはり部品が足りないようだ、と言いあった。そして、お釜の中の大量の餅米を見てため息をついた。
 そのときである!
 一瞬の出来事だった。本当に一瞬だ。僕らが目を離した瞬間に、あっと言う間に餅米が潰れていき、餅へと変化していったのだ。
 核となったのは母親が無理矢理手でつぶした少量の餅のようなものだった。
 それが中心の棒に触れると棒は勢いよくそれを巻き込み、その周りにあった熱々の餅米をも巻き込み高速回転により押しつぶし、混ぜこねてねばねばとした餅へと変化させていったのだ。後はそれの繰り返しである。繰り返しとは言え、棒は高速に回っているので人間の目には一瞬の事に思えた。まるでBGMでツゴイネルワイゼンがかかっているような気がした。
 先ほどまでは、餅米は、棒の周りでざわざわとコンサート帰りの群衆の様にうごめいていただけだった。
 だが、今やそれは一つの固体へと変わっていた。
 棒はその固体をぐるんぐるんとお釜の中で振り回し、もみほぐし、ねばねばをもちもちへと変化させていた。
 なんだか僕には棒がほら見ろ、俺の言ったとおりになっただろ、と自分の力を誇示しているように見えた。大暴れするプロレスラーのような迫力があった。
 餅米は確かに餅になった。
 本当にあの臼と杵でついたような餅になったのだ。白い湯気が立っていてものすごくおいしそうだった。
 僕らはびっくりしていた。ただの棒が、なんの変哲も無い棒が餅米を餅に変えたのだ。驚くべき事だった。
 多分これを開発した人たちは、最初臼と杵のように餅米をたたきつぶすシステムを考えたのだろう。だが、そのシステムでは上手くいかずだんだんと形を変え、行きついたところがこの高速回転するシンプルな棒だったのだ。
 他に道具はいらない。ただ、このシンプルな長さ十センチメートルくらいの棒があれば餅米は餅に変化するのだ。
 叩き潰す以外に餅米を餅に変える方法があるなんてそれまで僕は思っても見なかった……。

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