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少年は、なんか怒られている感じだったな。 太った女の人は、きっと、少年の面倒をみてくれている人なんだ。 「心がねじけていてね。いつも苛立っているのさ」 ねじけているなんて言葉よく知っているなあ、なんて思いながら僕は聞いていたんだ。 セールスマンが言うには、少年は目を治す手術をしたけれど、治らなかったんだって。 治すには、難しすぎる病気でね。はっきり言って、現在の医学では治せないものだったのさ。 医者も、お金目当てに無理やり手術したのさ。 手術にはね、お金がかかるものさ。 たくさんのお金だね。小さな花屋じゃ稼げないようなお金さ。 花屋の女の人は、そのお金をある金持ちから借りてね、老人と言ってもいいような男さ。 それで、そいつがまた、あんまりイカシテない奴でね。 想像できるだろ? 不誠実なのさ、お金でなんでも解決しようとするんだよ。 そのお金持ちは、花屋の女の人を気に入ってね、彼女を手に入れたいと思ったのさ。 息子の目の手術代に困っているのを知るとね。さっそく、大金を持って現れたってわけだよ。 こういうのってちょっと考えちゃうよね。 見方によっては親切な行為だから、もしかしたら良い人なのかもしれないって思っちゃうけど、でも、やっぱり、心の暗い部分があるんだな。 花屋の女の人は、お金は働いて返すって言ったんだって、でも、かなりの金額のお金さ。そう簡単には返せないよ。 しかも、利子ってやつ? あれを物凄くつけてきたのさ。 利子だけでも返すのが大変だよ。 それで、そのお金持ちは花屋の女の人に、自分のものになれってなことを言ったのさ。 全く頭がいい男なのさ。使い方が間違っているけどね。 女の人は返事に困っちゃったってわけ。 それで、今日の夜、その返事をしないといけないんだって。 お金を返すか、自分がお金持ちのものになるかっていうののね。 少年は、そんな事情をよく知っていたのさ。 それで、苛立っていたんだよ。 「今日?」 僕はセールスマンに聞いたんだ。 「今日です」 セールスマンは、さらっと言ったね。 まったく、こいつは花屋の女の人に言い寄ってるお金持ちと同じくらい意地が悪いんだな。 お金はね、実は、どうにでもなるんだ。 知っていると思うけど、僕の家は金持ちでね、僕自身もかなり貯金があるのさ。 僕はこのとおり、出歩けないからね、小遣いなんてもらっても使う事がなくてさ、貯まる一方なんだ。 花屋の女の人も、そんな変なお金持ちじゃなくて、僕からお金を借りればよかったのにね。 今更遅いけどさ。 問題は目だよね。 これはちょっと困っちゃうな。 少年の目は何と交換なんだろう? きっと、僕の何かと交換なんだよ。 実際にはわからないけれど、経験からそんな風に思ったんだ。 あの石板に書かれることの多くは、僕の何かと交換になっているわけだからね。 試してみればって、目でセールスマンは僕を見ていたね。 僕は考えたんだ。それで、こう思ったのさ。 もしかしたら、僕の目と交換なんじゃないかって、 まいったね、こりゃ。 きっと、僕の視力と交換なのさ。 勘だけど、間違いないって思ったね。 僕は自分の視力が失われることについて考えたね。でも、僕は今までに色々な物を見てきたからね。 少年は、何も見た事がないんだ。生まれたときから目が見えないんだ。 僕と比べることはできないな。 僕はセールスマンに、石板に少年の目が見えるようになる、と書かせたんだ。 案の定、僕は目の前が真っ暗になっちゃったな。 真っ暗な中に放り込まれちゃったんだ。 僕の目が見えなくなっちゃたんだ。 セールスマンは僕をベッドに運んでくれた。基本的に優しい男なんだ。 それで、少年がどうなっているか、報告してくれたのさ。 少年はパニックになっていたみたいだね。 一緒にいる太った女の人もパニックになっていたみたいだね。 気持ちはわかるよ。 突然目が見えるようになったら僕だってパニックになっちゃうな。 僕はセールスマンにベッドの下にある箱からお金を取り出して、少年の家に届けるように言ったんだ。 あのお金持ちに返すお金をあげることにしたんだ。 セールスマンはお金を持って、行ってしまったね。 セールスマンがいなくなると、とたんに寂しくなっちまったな。 真っ暗な中に一人で取り残されたのさ。 そりゃ寂しいよね。 でも、しばらくすると、セールスマンが戻ってきたんだ。 僕は上手いことお金を渡せたのか聞いたんだ。 渡したってセールスマンは言った。 仕事はきっちりこなす奴なんだよ。 僕は、セールスマンに望遠鏡で花屋を覗かせたんだ。 花屋の女の人は、家に帰ってきていてね、子供の目が見えるようになったのと、お金が現れたことに驚いているみたいなんだ。 「喜んでないの?」 「喜んでいるというよりは驚いてますね」 そりゃそうだよね。僕だって驚いちゃうだろうな。 それから花屋の女の人、どこかに連絡をしたんだ。 どうやら、あのお金持ちに連絡したらしいんだな。 高そうな車がすぐにやってきてね。 中から、あの金持ちが出てきたんだ。 もちろん、僕は見ることはできないんだよ。 僕が創ったセールスマンが教えてくれたのさ。 花屋の女の人は、お金持ちになんだか言ったんだな。 「どうなってるの?」 「お金持ちが何かしくんでいると花屋の女の人は思っているようですね」 「お金持ちはどうしているの?」 「なんだか謝っているようですね」 奇妙な話になっちゃったな。 「お金は受け取れないって言ってますね」 「どっちが?」 「お金持ちが」 「よく望遠鏡で覗いているだけで、はっきりとわかるね」 「ええ、読唇術に長けてますから」 まったく、ハンサムな奴ってのは奇妙な特技があるもんなんだよ。 「なんで、受け取らないんだろ?」 「そりゃ、お金を返されたら、言い寄ることも出来なくなりますからね」 なるほど、そんなこと思いつきもしなかったな。 「あーあー、お金ばら撒き始めましたよ」 酷いもんだよ、人のお金だと思って。 「おや、少年、家を飛び出しました」 「なんで、飛び出したの?」 「若い頃ってのは、すぐに家を飛び出すものなんですよ。有り余るエネルギーをもてあましているもんでね」 そんなことあるわけないよね。 少年はむしゃくしゃしたのさ。 色んな問題が彼を苦しめたのさ。 僕にはよくわかるな。 でも、ついさっき目が見えるようになったばかりなんだよ。 この世界に馴染んでないだよ。 普段、話に聞いていたって危険だよね。 壁とか階段とか自転車とか車とか……。 「ねえ、今どうなってるの?」 僕は黙っているセールスマンに聞いた。 こいつってば、急に黙っちゃうんだもんな、沈黙って気になっちゃうもんなんだよ。 「ああ、すいません、いえ、ちょっと驚いちゃったもんで」 「なんで驚く」 「いやあ、交通事故にあってしまって」 まったく、僕はがっくりしちゃったよ。 悪いことってのは、予想しちゃいけないんだよね。 考えた瞬間に現実に起こっちまうもんなのさ。 僕はこの時覚悟を決めたね。 僕のせいなのさ。 僕が少年の目を突然見えるようにしたからいけないんだ。 もっと、段階をおえば良かったのさ。 急にやりすぎたんだよ。 僕は、少年が死んでしまったら、石板に生き返るように書くつもりだったんだ。 「もしも、少年が死んでしまったら、石板に、生き返るように書いてよ。きっと、僕の何かと交換なんだけど、かまわないから」 僕は言ったんだ。 「それは別にいいですけど、あの少年が死ぬにはまだ数十年かかりそうですね。むしろ、あなたの方が先に寿命が来るんじゃないかな?」 「え? だって、交通事故にあったって言ったじゃない。あ、わかった、たいした事故じゃないんでしょ」 「いえ、たいした事故ですよ。普通乗用車が三台に大型トラックが二台にショベルカーが一台ぐしゃぐしゃですね。飛び出た少年を避けようとしたトラックが横転して信号で止まっていた車に突っ込んだんでね。幸い死んだ人はいないみたいですけど。軽い怪我した人だけですね。たいした事故だけど、たいした事故じゃないとも言えますかね」 僕はあっけにとられちゃったな。 おもわずおろおろしちゃったよ。 まったくまいっちゃうよね。 だって、僕が変なこと考えなかったら、こんなことって起きなかったんだよ。 僕が石板に奇妙なことを書かなければ、今とは違う世界があったはずなんだよ。 「石板に、事故が起こらなかったと書こう」 「気にしなさんな。あの位の事故なんて、日常茶飯事ですよ。いちいち気にしてたら身がもたない」
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