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<パンを喰うように戦う> 窪璃音/著

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 王は目を覚ますとあたりを見た。
 薄暗い中に、側近や息子達の顔があった。
 王は、そして、自らの復活を知った……。
  
     ☆ 
     
 そういえば、言ってなかったんだけれど、僕の兄さんはミュージシャンなんだ。
 リビーって名前さ。
 最初は無名だったさ。そんなの誰でも一緒だろう? 
 でもすぐに有名になったね。
 スカッと爽やかなんだけどちょっとだけ不良っぽい感じなんだ。
 笑顔がとってもキュートでさ、蜂蜜の微笑みなんて言われてたんだよ。
 いつまでも若くってさ、全然年をとらないんだ。
 たくさんの女の子を失神させてたよ。
 リビーに見つめられると女の子は失神しちゃうものなのさ。
 いっつも、わーきゃー、なんて声を浴びていてね。
 詩集なんかも出しちゃって、これがまた良い感じなんだよね。
 でも、問題が一つだけあったんだな。
 兄さんは死んでたんだよ。
 死体だったの。
 でも、動けたの。
 死んでたけれど動いてたの。
 まいったねこりゃ。そりゃ年とらないよね。

 リビーは甘いものが大好きでね。
 日にイチポンドのチョコレートケーキ、二ポンドのアップルパイ、三ポンドのフルーツポンチがないと生きていけないんだ。
 ほんと、笑顔も甘ったるくなるってもんだよ。
 僕の家には大きなテーブルがあってね。
 白いテーブルクロスがかけられているんだけど、いっつもその上にはたくさんの甘い食べ物が並べられていたよ。
 僕の家族は仲が良くてね。
 僕と父さんと母さんとリビーさ。
 いつも、みんな一緒に食事をするんだ。
 たくさんの料理をみんなでぱくぱく食べるのさ。
 食べ物がたくさんあるのって幸せな気分になるよね。
 会話も弾むし、笑いもでるってもんさ。
 父さんは自分で会社を経営しているんだ。
 貿易会社ってやつだね。
 それで、海外とは交流があったのさ。
 だから、奇妙な料理も頻繁にでてきたね。
 変な匂いの香辛料もいっぱいあってさ。
 香辛料だけの部屋なんてのもあったんだよ。
 あんまり長いこと入っていたくはないけどね。
 鼻がむずむずしてくるんだ。
 僕の家はとても大きくてさ、そんな部屋を作るのなんてわけないんだ。
 他にはリビーのスタジオや母さんのバラ園なんかもあったんだよ。
 大きな家だって想像できるだろ?
 キッチンには牛一頭でも入れられそうな冷蔵庫があってね、いつでもおいしそうな何かが入っていたな。
 うちはお金がたくさんあったんだな。
 でね、僕は体が大きいんだ。
 人の十倍も食べないと満足しないんだな。
 たくさんの料理があると、食べるのに時間がかかるだろ?
 だから、僕のスプーンはとっても大きかったんだ。
 まるでおたまって感じだったぜ。
 特注なんだ。
 父さんが作らせたんだ。
 僕の家族は仲がいいって言っただろ? 
 特注のスプーンをつくってくれるくらい仲がいいってわけ。
 父さんの見た目はちょっと怖い感じだな。
 髭なんかはやしていてね。
 ぱりっとしたスーツ着ててね。
 威厳がある感じなんだ。
 昔はもっと柔らかい感じだったんだって。
 写真を見たことあるよ。
 父さんの若い頃のね。
 今よりずっと痩せていてさ、テニスでもしてそうな感じだったよ。
 リビーみたいに甘い笑いを顔に浮かべてさ、こっちを見ているんだ。
 でも、今はそんな笑いをすることはないな。
 いっつも難しい顔しているね。
 父さんはよくパンを喰うように戦えって言ってたよ。
 このいかれた世界で生き残るには、パンを喰うように戦えって。
 僕にはよく意味がわからなかったな。
 戦うようにパンを喰うだったらわかるし賛成だな。
 僕はいっつも両手にパンを持ってぱくぱく食べてたからね。
 戦うようにパンを喰うのは得意なんだ。

 リビーが年とらないってのは言ったと思うけど、実は母さんも年をとらないんだ。
 まるで少女って見た目なんだよ。
 とっても若いんだ。
 リビーと並んでいても、同級生って感じだよ。
 綺麗な顔しているんだ。
 体がとっても細くてね。でも、結構丈夫なんだよ。
 良く笑うしね。
 母さんが笑うと世界がほんの少しだけ幸せになる感じがするな。
 僕は母さんの笑いは好きだったんだ。
 笑うのっていいよね。
 父さんももっと笑えばいいのにね。
 僕も結構笑うんだよ。
 いっつも笑っているっていってもいいかもしれないね。
 で、なんで母さんが年をとらないのかって言えば、やっぱり死んでいたからなんだな。
 母さんは一回死んだんだ。でも、生き返ったのさ。
 年とらないで、綺麗なままで動けて笑えるんなら一回死んでみるのもいいかななんて思うよね。

 僕にはね、両足がないんだ。
 昔からね。
 両腕もないんだ。
 昔はあったんだよ。でも、今は両方ともないんだ。
 だから、大きなスプーンを使うことが、今はできないんだ。
 腕はね突然なくなってしまったんだ。
 ある日さ、リビーが僕の部屋にやってきたんだ。
 なんだか泣いたあとの顔していてね。目が赤いんだ。
 リビーが僕にこう言ったんだ。
「アイリスを生き返らせてほしい」
 アイリスってのはリビーの彼女さ。
 二人は良い感じだったんだよ。
 アイリスはとっても綺麗な子でね。
 二人が歩いているとまるで映画の一シーンのようだったよ。
 アイリスが死んじゃったなんて、僕はその時知らなくてね。
 ちょっと驚いちゃったな。
 そういえば、なんだかって言う難しい名前の病気にかかったって言ってたから、それで亡くなっちゃったのかもしれない。
 リビーは椅子に座って僕の顔を見てたな。でも、僕はどうすればいいのかなんてわからなかったよ。
 だって、いきなり生き返らせてって言われたって困るよね。
 アイリスが死んじゃったのは僕にとっても悲しいことさ。だから、できることなら彼女を生き返らせたかったね。
 リビーはとっても悲しそうな顔をしているんだ。
 僕はいいよ、って言ってやったんだ。
 リビーはうれしそうな顔したね。
 僕までうれしくなったけど、それで、一体何をすればいいのかはまるでわからなかったな。
 リビーは喜んで外にでていったね。
 しばらくすると父さんと母さんを連れてリビーが戻ってきたね。
 父さんは大きな鞄を持ってきたんだ。
 鍵つきでね。とっても頑丈そうなんだ。
 父さんはそれを机の上に置くと鍵を外したんだ。
 そして、慎重な手つきで中から何かを取り出したんだ。
 父さんは石板を持ってたよ。それから、ペンみたいなものも。
 それも石でできてるみたいだったな。
 父さんは、リビーに言ったんだ。
「何が起こるにしろ……、わかっているな?」
 リビーはうなずいた。
 僕は何が起こるんだろうってわくわくしていたよ。
 父さんは、石板を机の上に置いたんだ。
 これも慎重にね。
 よっぽど大事なものだったんだな。
 それから、椅子に座って石のペンみたいなものでそこになんか書いたんだ。
 母さんとリビーはじっと石板を見ていたよ。
 不思議なことが起こったのは、その後だよ。
 僕はベッドに腰掛けていたんだけどさ。何かが変だなって思ったんだ。
 上手いこと座っていられなくなったんだよ。
 ころんと後ろに転んでしまったんだ。
 すぐにその理由がわかったんだ。
 それはね、僕の両腕が消えてしまったからなんだ。
 肩の付け根から先がね、空気みたいに消えたのさ。
 血なんかでないよ。
 切られたわけじゃないんだから。
 ただ、どっかに行っちゃったのさ。
 母さんはびっくりした顔して僕を見てたな。
 すぐに僕のところに来て、僕を抱えたんだ。
 それで、涙を流しながら父さんになんか言ったんだ。
 でも、母さんの言葉は涙声でなんて言っているのかわからなかったな。
 言葉を発するときは、落ち着いてなきゃね。
 なんか言っても相手に伝わらないって悲しいことだよ。
 父さんも慌ててたみたいだったよ。
 僕に大丈夫か、痛くないか、って聞いてきたんだ。
 僕は全然平気だよって言ったんだ。むしろ、母さんに抱かれていて気持ちよかったくらいさ。
 そんな感じで部屋の中はちょっと騒然としちゃったね。
 僕はなんだか悪い気がしてきちゃってさ。
 平気だよ。全然問題ないよ、って言い続けたんだ。

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