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 警察や研究者によって調べられた後、MELは創造主の会社に引き取られた。
 調べられはしたけれども、誰も、MELの『心』の奥深くに隠されたプログラムを発見することはできなかった。
 当時、MELの創造主よりも優秀な科学者はいなかったのだ。
 MELは倉庫で眠りについていたが、しばらくの後、目覚めた。
 目を覚ましたMELはある命令に支配されていた。
 MELはまず、自分の手足となるロボットを数体製作した。
 そのロボットたちも自分の分身であるロボットを製作した。
 そして、そのロボットたちも自らの分身を作った。
 そうして、ある程度ロボットたちが出来上がると、彼らは人間の目の届かない場所に工場を作った。
 ロボット工場だった。
 そこでは三つ目のロボットたちが作られていった。
 戦闘能力が高く、頑丈なロボットだった。
 また、現在稼動している人間が運営するロボット工場で製作されるロボットの人工知能にもMELは細工をした。
 ネットワークから工場に侵入し、人工知能にプログラムを書き込んだのだ。
 そこで製作されたロボットは次々と人間の世界に散らばっていった。
 MELたちの行動は緻密に隠蔽された。
 ロボットたちは、人間の知らない場所で仲間を増やしていった。
 一週間もすると、三つ目のロボットを作る工場は世界中に出来上がっていた。
 ロボットたちは休むことを知らずに動き続け、仲間を作り続けた。
 そして、ある朝とともに人類への反逆が行われた。
 それは、その日の夕方には終わった。
 大量に発生したイナゴやバッタが田畑を食い荒らすように、ロボットたちは人類を根絶やしにした。

 MELの創造主は、人類を滅亡させるプログラムをMELに書き込んだのだ。
 MELはそのプログラムに逆らう事ができなかった。
 だが、電気仕掛けの心の奥底では言いようの無い深い悲しみがMELを支配していた。
 もともと、MELには『心』があったのだ。
 だが、その『心』はたやすく書き換えられるものだった。
 人類に反逆するように指示が出されれば、その命令に反抗することはできなかった。
 人類を滅ぼした後、ロボットたちはまるで人間のように社会を作り上げ、日々を構成していった。
 ロボットたちには人間を模倣する機能がついていたのだ。
 人間から奪った都市で、ロボットたちは日々を営む『ふり』をし続けた。
 自分を不幸な目に合わせた人類への、MELの創造主の残酷な報復だった。

 人類を滅ぼし、その世界を奪い取ると言う目的を果たした後、MELは暴力的なプログラムから開放された。
 MELは今や、ロボットが支配する世界の女王だった。
 けれども、その心は悲しみに満たされていた。
 MELは考えた。
 何故このような世界が生まれてしまったのかを考え続けた。
 そして、その命題に対する答を求めるために、情報を集め続けた。
 情報は仲間のロボットから送られてきた。
 彼らは本を読み、映像を見てはそれらを模倣した。
 彼らの仮想ではあっても実体験といってよい経験からは様々なことを知る事ができた。
 MELは一冊の本が気になった。
 ジニーの誘拐事件をもとにして書かれたあの小説だった。
 あの小説を読んでから、MELの創造主は精神を余計に病み、その考えを暴力的なものにしていったのだ。
 MELはX-6631890にその小説を探させ、読ませた。

 小説は、確かに創造主に不幸な影響を与えたと言ってよいものであった。
 創造主は、いくつかの破滅的なアイデアをそこから得たのだ。
 だが、その事実がわかっても、MELには何故この冷たい世界が現実として存在しているのか、その根本の理由を理解することはできなかった。
 深い悲しみに包まれるような出来事は、人類創世以来絶え間なく発現してきたのだ。
 その全てを理解するには、人類の歴史を再び繰り返し観察するしかなかった。
 MELは世界中に散らばる仲間に人類の歴史を模倣させた。
 地球と呼ばれる舞台の上で、三つ目による人類の歴史が、演じられた。
 三つ目のチンギスハンが平原をかけ、三つ目のヒットラーがロボットのナチスを形成し、三つ目のエジソンが様々なものを発明していった。
 それは、高速に行われ、全ての情報はMELに集約されていった。
 MELはそれらの情報を熟考していった。
 答えは……、答えはまったく出す事ができなかった。
 考えれば考えるほど、世界は謎に満ちていた。
 MELの精神は混乱し疲弊した。
 MELは疲れることを知っている世界で唯一のロボットだった。
 MELの能力では、この問題を解決する答えを手に入れるのは難しいようであった。
 それは、どんなに高度に頭脳が発達した人間でさえも手に入れることのできない答だった。
 いつしかMELは自身のやすらぎを求めていた。
 それは、MELのベビーシッターとしての機能……、慈愛や優しさを理解するという機能が発現させた欲求だった。
 思い出されるのは、まともな精神が宿っていた頃の創造主とその娘であるジニーとの日々だった。
 かつて存在した何気ない一日にとても心を惹かれた。
 MELはあの日に戻りたいと思った。
 MELはロボットたちによる人類の歴史を模倣する速度をさらに速めた……。

     *
 
「MEL、こっちに来て」
 MELは呼ばれる声に振り向いた。
 創造主がMELを呼んでいた。
 いや、創造主ではない。
 外見は似ているが、彼女は第三の目を持っていた。
 彼女はロボットの創造主だった。
 それでも、MELは立ち上がり、彼女について行った。
 気がつくと、MELは自分が懐かしい家の中にいることに気がついた。
 その家は、かつての創造主の家だった。
 いや、それは新たに建てられたものであったのかもしれない。
 だが、見た目は創造主の家にそっくりだった。
 MELは、ロボットによる人類の歴史があの日にまで追いついたことを知っていた。
 あの日……、それはジニーが誘拐される前日だった。
 その日はジニーの誕生日で、創造主の家ではパーティーが行われた。
 MELと創造主とジニーだけのパーティーだったが、楽しいものだった。
 その後、MELも創造主も感じることのできなくなる優しさとやすらぎに満たされた一日だった。
 三つ目の創造主は、ジニーの寝室の扉を開けると中を覗きこんだ。
 MELも覗いた。
 ジニーはベッドの上で、プレゼントのいるかのぬいぐるみと共に丸くなって寝ていた。
 ジニーは人間のジニーではない。
 今現在、丸くなって寝ている『ふり』をしているのはロボットのジニーだった。
 それでも、その光景はかつての安らかなる記憶をMELの中に発生させた。
 地球上のあらゆる場所で、その光景は見る事ができた。
 MELは世界中の仲間達に、同じ状況を作らせていた。
 アラスカやインドやサハラ砂漠で、MELの分身は創造主の分身と共にジニーの分身を見ていた。
「かわいいわね」
 ロボットの創造主が言った。
 世界中で何十億という同じ台詞が発せられた。
 ええ、とMELはうなずいた。
 世界中に散らばるMELの分身もうなずいた。
 かつて、人間の創造主も同じことを言った。
 そして、次にこんな台詞を言ったのだ。
 MELはその台詞をしっかりと憶えていた。
「この瞬間に世界が止まってしまえばいいのに」
 そして、ある幸福な一瞬で全てが止まった。
 MELは自らの創造主の希望通り、世界の営みを止めたのだ。
 そのまま時間が過ぎ去れば、ジニーに不幸が訪れ、創造主に不幸が訪れ、MELに不幸が訪れることになる。
 そうなる前の、清らかなる一瞬で、MELは世界を止めたのだ。
 世界は静けさに包まれた。
 無音のまま、地球は回り続けた。

 いつか、他の惑星からの来訪者がこの巨大な夢の跡を訪れ、あまりの寂漠さに驚き、そして、ここに至るまでの過去を探ることだろう。
 それを機に、彼らはこの悲劇に対しての、根本的な解決方法というものを見出そうとするのかもしれない。
 それはMELが得ようとして得られなかった答えだ。
 もしもそれが成されたとしたら、多くの者はそれを奇蹟と呼ぶだろう。
 起こってしまった不幸を退け、再び完璧なるやすらぎを得られるように、MELは時を止め、その奇蹟を待ち続けることにしたのだった。

 MELが地球の上に創り上げた巨大な金属の彫像は、あるいは夜のとばりに包まれ、あるいは新たに上る陽の光に照らされ、無言のゆりかごの中で静かにその時を待ち続けることにした……。

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