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F
朝が来た。日の光が窓から差し込んでいた。
妻はまだ寝ていた。
静かな寝息を立てている。
私は起き上がるとバスルームに行った。
シャワーを浴び、汗を流した。
バスタオルで体を拭き、髭を剃ろうと洗面台に向かった。
そして、鏡を見た。
そこに写ったのは見慣れた自分の姿だった。
だが、その姿は次第に崩れていった。
そして、現れたのは三つ目のロボットの顔だった。
私は驚きよろめいた。
壁に手を這わせ体勢を立て直した。
私は再び鏡を見た。
そこにはやはり光る三つ目があった。
それは無機質で鋭い光を放つ鉄のフレームと、カラフルな配線で構成されたロボットの顔だった。
自分の右頬をさすってみた。
鏡の中で、ロボットが右頬をさすっていた。
私は、自分がロボットであることを認識した。
それを合図に、今まで磨き上げられ輝いていたバスルームは消え去った。
あたりは煤けたコンクリートむき出しの、灰色がかった部屋に変わった。
割れた窓ガラスが目の前に見えた。
振り返ると、多くの棚が目に入った。
棚にはたくさんの本が並んでいた。
私は自分が図書館にいることに気がついた。
無人の図書館だ。
テーブルの上に本が一冊置いてあった。
近づき手に取り、それを見た。
題は『機械式刑務所からの脱走』という題だった。
表紙の印象から、それがSF小説であると思えた。
私は小説を読もうと思った。
その時、頭の中で声がした。
『模倣モードに入りますか?』
私はNOと答えた。
そして、ぱらぱらとページをめくり、その内容が、つい先ほどまで自分が体験した出来事と同じであることを確認した。
私は、自分が体験した事が、模倣モードによる小説世界の模擬であることを認識した。
つまり、私自身がロボットであるということだ。
私は窓へと行き、外を見た。
街をたくさんの三つ目のロボットが歩いていた。
そうだ。私たちは人類を滅ぼしたのだ。
たった数時間で、あっという間に。
私たちは、そのようにプログラムされた機械だった。
だが……、
人工頭脳が疑問を発した。
この現実の世界は、あのSF小説に似ている。
私が今見ている世界は現実のものだ。
私は模倣モードを切っている。
私は今、自分自身の思考回路を使用して考えを進めている。
つまり、あの小説はこの世界について書かれたものであるということになる。
しかし、ロボットに滅ぼされた人類が、その内容について本を書くことはできない。
私の仲間の誰かがSF作家を模倣して書いた本なのだろうか?
いや、そんなわけはない。
もしも、そのような事があったとしたら、私はその事実を知っていなければならない。
私たちは情報を共有しているのだ。
誰かがどこかで得た情報は、私の知識としても蓄えられている。
それは、私たちの母であるMELと言う名前の一体のロボットを中継して知る事ができるのだ。
この本は、実際の人間が書いたものであるはずだった。
私は、再び本を手に取った。
小説は、人類創生のための新たな一日を迎える主人公と妻の姿で終わっている。
人間にとっては希望があるような終わり方だ。
この現実世界とよく似ているが、取り戻されようとしているところが違う。
現実には、人間は根絶されてしまっているのだ。
また、この小説のロボットと私たちも微妙に違う。
私たちには『考える』という機能がついている。
ただ、模倣したり、決められたプログラムを間違いなくこなすというだけではなく、自ら考えるという機能があるのだ。
そこが、この小説に出てきたロボットとの違いだ。
そこまで考えを進めたとき、再び頭の中で声がした。
「X-6631890、次の本へと移行しなさい」
それを合図に、私は、棚へ行き、古い本の一冊を手に取り、その世界に没入していった。
頭の中では声がしていた。
「模倣モードに入りますか?」
YESと私は答えた。
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