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夜、ごそごそという何かが擦れる音が聞えた。
俺は起き上がってじっと耳を澄ました。
音は壁の向こうから聞えてきた。
ウィリーが何かをしているな、と俺は思った。
俺は手鏡をつかって、隣の監房を見た。
ウィリーが壁の通風孔を壊し、そこから逃げようとしていた。
少しして、ウィリーの姿は見えなくなった。
俺は自分の部屋の通風孔から、壁をよじ登るウィリーの音を聞いた。
しばらくしてから、足音が聞えた。
デイブの足音だ。
俺は鉄格子の間から手を出し、振ってから、ウィリーの監房を指差した。
デイブはすぐに俺の合図に気がつき、走ってきた。
ウィリーの姿がないことに気がつくと、鍵を開け、中に入った。
通風孔の蓋が取られていることに気がつくと、笛を吹いた。
すぐに他の看守ロボットがやってきた。
辺りがあわただしくなった。
囚人のロボットは鉄格子を揺らし、コップを壁に打ちつけ、興奮しているふりをした。
看守ロボットの何体かは通風孔からウィリーを追った。
俺はベッドに横たわり、じっと耳を澄ましていた。
少しして、銃声が聞えた。
それはすぐにやみ、辺りは静けさを取り戻した。
翌朝、ウィリーの部屋は空のままだった。
俺はウィリーが始末されたことを知った。
どうやらロボット同士でも争い、壊しあうというのは確かなことと思えた。
夕方、俺は『ジョンレノンのイマジン』を流した。
彼女は、俺の存在を知っているはずだと思った。
ロボットではない存在。
人類を滅ぼした後に、まだ、語りかけることの出来る相手がいると知って、どんなことを考えるのだろう、と俺は思った。
俺が人造人間であるということは知っているのだろうか?
もしかしたら、気がついているのかもしれない。
だが、俺の創造主は、俺がこの星で最初のほぼ完璧な人造人間であると言った。
俺以前は、ただ、各部のパーツを作る事ができただけなのだ。
妻である彼女が捕らえられて後、創造主は自分の精神のバランスを保つためにも研究に没頭した。
そして、完成させたのが俺なのだ。
実際、彼女が何を考えているのかはわからない。
もしかしたら、精神が病み、気が狂ってしまっているのかもしれない。
それに、あのレコードをかけているが彼女ではなく、ただの一体のロボットである可能性だって捨てられなかった。
だが、とにかく会いに行ってみればわかるか、と俺は壁を見上げて思った。
夜、ベッドのマットを剥がし、むき出しになった鉄パイプのベッド本体を見た。
錆がすすみ、接合が脆くなっていた。
俺は最も腐食の進んでいる一本の鉄パイプを掴むと強く揺すった。
俺の肉体は、疲れや痛みを感じるという部分は人間と同じだが、その基礎体力は勝っている。
本気になれば、錆びた鉄パイプぐらいなら引きちぎる事ができる。
案の定、鉄パイプはベッド本体から外れた。
末端は都合のいいことに外れた瞬間、へこみ、平たくなっている。
鉄パイプを通風孔の蓋と壁の隙間に差し込んだ。
そのまま、力をかけ、てこの原理で蓋を外した。
外れた蓋は床に落ちた。
鉄がコンクリートにあたる音が響いた。
走って近づいてくる足音が聞えた。
重い足音、デイブの足音だ。
デイブは部屋の前に来ると、壁に開いた通風孔を見た。
鍵を出し、扉を開けた。
中に入ってくると、通風孔を覗いた。
俺はその一部始終をマットを元に戻したベッドの下から見ていた。
デイブが通風孔に首を突っ込んだ瞬間、鉄パイプを手にベッドを跳ね上げ飛び出た。
そして、鉄パイプをデイブの背中につきたてた。
暴れるデイブが落とした鍵を拾い上げると廊下に出た。
走りながら鍵を興奮している囚人ロボットに渡した。
囚人ロボットは、自分の監房の鍵を開け、その隣、またその隣と次々と鍵を開けていった。
俺は、囚人ロボットは脱走を望んでいるのだと感じていた。
そして、いざ、そのチャンスが訪れたときには、そこに見合った行動をとるのだろうと考えた。
彼らは凶悪な犯罪者のふりをしているのだ。
ということは、脱走や暴動を起こしたいと思っているというわけだ。
そう、かつて、ここにいた人間の囚人のように。
囚人ロボットは次々と仲間を自由にしていった。
そして、看守ロボットと戦った。
銃声が聞え、鉄と鉄がぶつかり合う音が聞えた。
俺は壊された看守ロボットから拳銃を奪うと、コントロールルームにいる看守の顔面を撃ち抜いた。
そして、コントロールルームに飛び込むとそこにあったレバーを全て下げた。
それは、全ての監房の扉を開けるレバーだった。
自由になった大量の囚人ロボットが看守ロボットを襲った。
彼らは暴動をやめる気配がなかった。
何体かは銃を手に外に出、塀の上にいる看守ロボットと撃ち合った。
数で勝る囚人ロボットは、次々と看守ロボットを壊していった。
俺は混乱の中、建物の外壁を上り続けた。
屋上まで出ると、女性用の刑務所が見えた。
あちらの看守ロボットがこっちにやって来るのが確認できた。
俺は、屋上沿いに走り、壁を越えた。
手薄になった建物の中に入るとコントロールルームに向かった。
そして、監房の扉を開けるレバーを倒した。
女の囚人役ロボットが暴れ始めた。
騒然とする館内を、俺は彼女を求めて走り回った。
彼女、俺の創造主の妻である女性だ。
俺は長いこと探し続けた。
全ての敷地、全ての部屋を探した。
暴動は続いていた。
囚人ロボットは看守ロボットを全て倒していた。
俺は、次に囚人ロボットがこの島から脱出するのだと思っていたが、違った。
全ての看守ロボットを倒した後、彼らはその動きを止めた。
島は一瞬にして静かになった。
しばらくの後、囚人ロボットは荒れた所内を片付け始めた。
それから、監房に戻った。
囚人ロボットは何かを待っているようだった。
俺は、彼らが看守ロボットを待っているのではないかと思った。
ロボットたちには、ここを出ても予定がないのだ。
自分で未来を創造する事ができない彼らは、人間のある一時期を模倣することだけしか出来ないのだ。
だから、彼らは脱出を夢見ながらも、実際には実現しないし、させない。
看守ロボットは新たに供給されるのだろう。
囚人ロボットはそれまでじっと沈黙して彼らを待ち続けるのだ。
そして、何事も無かったかのように、また、同じ一週間が繰り返されることになるのだ。
俺はボートを探した。
だが、それはどこにも見当たらなかった。
俺は、静寂に包まれる島を後に、海に飛び込んだ。
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