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「よく僕たちはマッドだと言われた」
俺の胸にぽっかりと開いた穴に、銀色のロケットを入れながら創造主は言った。
「それについて、どう思う?」
「わからんね。俺にわかるのは、あんたが俺の創造主であり、その命には逆らえないってことだけ」
「昔、ブレードランナーって言う映画があったんだ。君みたいな人造人間、レプリカントって呼ばれていたんだが、彼らが遠くの星から自分の寿命を延ばしてもらおうと地球に戻ってくる話なんだ。レプリカントは短命でね」
「なんだか地味な話だね」
「そうだね、全体的に暗い映画なんだよ。でも、良い映画だ」
「結局そいつらの寿命は延びるのかな?」
「いや、基本的には悲劇的な終わり方さ。レプリカントは人間よりも優れていてね。人間は彼らを恐れたのさ」
「今じゃ実話になりそうな話だね」
「君のような製品がたくさん増えればね」
「俺の兄弟が悲しみを感じるようになるなんてちょっと嫌なことだな」
「僕が君に望むのは彼女の暗殺だけだよ。いや、僕と彼女がこの世で望むことと言ってもいい。それさえすめば、僕がこの世界でする事はなくなる。人造人間を作ることもしない。この研究所も灰にするつもりだ。君の兄弟は作らないよ」
「人間と僕らの違いかな? 未だにどうして、あんたが自分の奥さんを殺そうとしているのか、よくわからないな」
「それを彼女も望んでいるからだよ」
「自分が殺されることを望んでいるなんて変な話だな」
確かにね、と彼は言いながら俺の胸肉を元通りに戻し、特殊なメスで傷口を貼り合わせた。
俺の鋼鉄製の心臓に、人を即死させるに充分な毒を含んだロケットは収まった。
俺の創造主が言うには、彼の奥さんが海に浮かぶ刑務所にいるということだ。
彼女は自分の寿命の百倍もの長さの刑期を言い渡された。
ようするに死ぬまで出ることはできないってわけだ。
俺は彼女の暗殺をその使命として承った。
俺の存在理由はそこにある。
俺はショットガンを片手にスーパーマーケットに乗り込むと、片っ端から撃ちまくった。
人は撃っていない。商品だけだ。
すぐに警察が店を取り囲んだ。
しばらく人質をとって立てこもったあと、俺は投降した。
この街では悪さをすると、その素性が知れようが知れまいが大海に浮かぶ人工の島の刑務所に送られることになっている。
俺の標的がいる島だ。
*
目を覚ました。
初めに、レコードをかけているのは彼女だな、と俺は思った。
俺の創造主の妻であり、俺が命を奪わなければならない女性だ。
彼女は人類への反逆罪でこの刑務所にいれられた。
天才的なロボット工学の博士であった彼女は、人類を滅ぼすためのロボットを開発し、実際に一つの街を壊滅させたのだ。
かつて、人造人間の権威である俺の創造主と彼女の間には小さな一人娘がいた。
ある日、その子は誘拐された。
誘拐犯は、娘と交換にロボットと人造人間に対する機密事項を渡すように要求してきた。
俺の創造主とその妻は雇われている会社に機密事項を犯人に渡すように要求したが、ライバル会社にそれらが渡ることを懸念する会社は、簡単には渡さなかった。
政治的な駆け引きが行われ、時間だけが過ぎていった。
結局、犯人は、娘をだだっぴろい駐車場に停めた車の中にいれ、最後通牒をつきつけてきた。
娘の首には時限式の爆弾がつけられていた。
それでも機密事項は渡されなかった。
彼女の会社はそれを出すことを拒否し続けた。
時は刻一刻と過ぎていった。
最終的に、車を取り囲んでいた警察や爆弾処理班は娘を車から連れ出そうとした。
そして、車の扉を開けた。
巨大な爆発はその瞬間に起こった。
赤黒いキノコ型の爆炎が立ち上った。
首の爆弾が破裂したのではない。
犯人は車にも爆弾をしかけていたのだ。
娘は骨も残さずに燃え尽きた。
俺の創造主とその妻を襲った衝撃は計り知れない。
心身を消失したまま日々が過ぎた。
夫婦の間では会話がなくなった。
無為に日々が過ぎた。
だが、高度な技術力を持つ彼女は、ただ無為に日々を過ごしたのではない。
彼女の心の奥では人類に対する激しい怒りが満ち、巨大なエネルギーを持って荒れ狂っていた。
彼女は会社の設備を使い、戦闘用のロボットを作った。
誘拐犯はライバル会社の人間だと彼女は考えた。
証拠はなかった。だが、そのような高度な機密事項を、一般の人間が手にしてもしょうがない。
ロボット会社であれば、それはきちんとした価値を持つものだ。
彼女はライバル会社のある街をロボットたちに襲わせた。
街は突然戦場になった。
そして、少しの時間の後、廃墟になった。
彼女は捕まり、長い刑に服することになった。
死刑の判決は下されなかった。
彼女の高い知能指数と、その知識に興味を持つ人々がいたのだ。
彼らはわざと彼女が死という逃避を行うことをゆるさなかった。
薬を投与し、死の欲求を退け、知識を吐き出し続けさせた。
彼女はモルモット的に生き続けることを強制されたわけだ。
こいつらも彼女の作品なのだろうか? と俺は外を歩いていく看守ロボットを見て思った。
この刑務所で生きているのは、どうやら俺と彼女だけのようだ。
それは何を意味しているのだろう?
例えば、ロボットに人間を殺すようにプログラムがされていたとしたらどうなるだろう?
何をもって人間とそのほかの事物を判別しているのかはわからないが、彼らは俺を人間ではないと思ったのかもしれない。
だから、俺は殺されないのだ。
彼らは人間の形のする奇妙な存在としての俺を観察し続けるだけだ。
彼女が殺されない理由は、彼らの創造主だからではないだろうか?
もとからそのようにプログラミングされているのだろう。
どのようにしてロボットを作ったのかはわからない。
だが、自分が捕まったときに起動するプログラムをどこかのコンピューターに仕組んでいた可能性はある。
そのコンピューターは世界中のオートメーション化されたロボット工場に侵入し、自動的にこれらのロボットを製造したのだ。
無理のある推理ではなかった。
その技術力を彼女は有しているのだ。
人類は滅ぼされてしまったのだろうか?
その可能性は高かった。
俺は考えた。
もう一週間近くこの刑務所はロボットに占拠されたままだ。
誰も外から尋ねてくる人間はいない。
軍隊も、特殊部隊も来ない。
それは、外の世界にそれらがもう存在しないという理由からではないだろうか?
軍隊にも特殊部隊にも警察にもロボットはいる。
暴力という面で、彼らは人間よりも優れている。
この世界では、大小のロボットの総数と人間の総数を比べた場合、ロボットの方が圧倒的に多い。
もしも、それらのロボットに人類に反逆するよう感応させる事ができたならば、人類の滅亡は短い時間でやってくるだろう。
さてさて、と言う事は俺の依頼主も死んだってことだ。
ならば俺は何をすべきか?
この機械化された世界で俺は何を想おう?
ロボットどもは様々なものを模倣し続けている。
彼らはただ模倣するだけなのだ。
もはや、世界は解かれるべき謎の多くを解決されないままに、放置することになった。
ロボットどもはこれまで人々が作り上げてきた日々をまねるのだ。
それが、彼らの創造力の限界なのだ。
その営みはこの星が終わるか、彼らのエネルギーが尽きるまで続くだろう。
俺は鉄格子の向こうにある空を見た。
空は小さな四角の向こうに広がっていた。
これまで、多くの詩人や作家が空を見上げただろう。
そして、ハローと言ったり、ファックと言ったことだろう。
俺は中庭にばらばらにされて眠るウィリーやジェロムのことを考えた。
彼らの希望はこの世から消されてしまった。
夢の先に彼らは行ってしまったわけだ。
運がよければ、どっかの世界で生命のやり直しなんかをしてるというわけだ。
ところが、俺は五体満足で生きているという。
塀の外を目指さなければな、と俺は思った。
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