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A
朝が来ると叩き起こされた。
広場に連れて行かされ体操をさせられた。
それは、人間の看守がいたときにもさせられていたことだった。
普段であったなら、周りには大勢の仲間がいたが、今は俺一人だった。
俺は、たくさんのロボットにかこまれて手足をばたばたさせた。
まったく間抜けな状況だった。
朝食として出てきたのは、昨晩と同じスープだった。
俺は、腐っている、これは食えない、と言った。
ロボットは電気ショックを俺に与えようとした。
俺は、暴れないから調理場に行かせて欲しいと、と言った。
ロボットは互いに顔を見合わせていた。
結局ロボットは俺を調理場に連れて行った。
俺は調理場の冷蔵庫を開け、中からめぼしい食材を取り出した。
コンロの火が点くかどうか心配だったが、きちんと炎は出た。
ポークソテーとコンソメスープに生野菜のサラダを作った。
食材は新鮮で旨かった。
冷蔵庫の中にはこの刑務所にいたはずの人間五百人分の食材がつめられていた。
俺一人で食べるのならば、当分は困らない量だった。
暴れず、逆らわずにロボットの指示に従っている限り、命を永らえることは可能であるように思えた。
食事の後には、作業所に連れて行かれた。
作業所では家具を作っている。
俺は、今日は何曜日だったかな? と思った。
火曜か?
だが、壁のカレンダーを見ると、どうやら今日は水曜であるようだった。
俺がグリーンともめたのは日曜だから、二日間、日の当たらない独房に入れられていたということだ。
その二日で世界は一変してしまったらしい。
水曜は、俺が作業所で作業をしなければいけない日だ。
どうやら、ロボットは過去に組み立てられた予定をこなそうとしているようであった。
作業所に行くと、俺は思わず目をそむけた。
辺りは一面血だらけだった。
銀色の旋盤は赤黒い血で被われ、床にはいくつもの血の溜まった跡があり、窓にも血の飛沫がこびりついていた。
どうやらここで看守や他の囚人をばらばらにしたようだった。
俺は、まず、掃除をさせられた。
乾ききっていない血の溜まりを見ると、ほんの数日前に、ここで残虐な行為が行われたことは間違いなかった。
床や壁にこびりついた血は、そう簡単には落ちなかった。
結局、綺麗になった時には日が暮れてしまった。
あたりが暗くなると、俺は作業所の明かりをつけた。
ロボットはじっと俺のその様子を見ていた。
少しして、所内のいたるところの電気が点けられた。
窓の外に漏れ出てくる光でそれがわかった。
ロボットは電気を点ける事を学んだようだった。
このロボットたちは、学習能力があり、知識と経験を蓄積していくことができるようだった。
俺に作業所を清掃させたことから、物事を論理的に組み立てていくこともできることがわかった。
俺に家具を作らせるためには作業所が綺麗でないといけない……。
俺に中庭で体操をさせるためには山と詰まれた肉片を埋めなければいけない……。
そうしたことは理解するようだった。
ロボットたちは、物事を模倣するだけではなく、模倣する対象の状態も保とうとするのだ。
ロボットの一体は、壁にかけられた予定表がはさまれたプレートを見ていた。
それには、一週間単位でどのような商品を作るか書かれている。
ロボットは、そこに書かれている予定と、現実との違いに困惑しているようだった。
その予定表は五十人からの人間が行うことについて書かれたものなのだ。
俺一人では出来ることは限られている。
ロボットは時計を見ていた。
普段の予定では囚人の自由時間だ。
図書室で本を読んだり、中庭でサッカーを楽しむことも許されている。
ロボットは俺にどこに行きたいのか聞いた。
電子的な雑音で話すロボットの言うことはわからない、ただ、感覚的にそのように聞いてきたと思った。
塀の外、と俺が答えるとロボットは警棒を振り上げた。
俺は両手を上げ冗談だよ、本当は図書室、と言った。
図書室にはたくさんの本がある。
レコードもあり、それを聴くこともできる。
俺は一枚のレコードをかけた。
『ボブデュラン、血の轍』
人間臭いそのアルバムを、機械に対するあてつけのように大音量でかけた。
ロボットどもは特に文句を言わなかった。
どうやら、音は聞えても、その音量の大小に気をつける神経はなさそうだった。
俺は本棚の間を歩いた。
そして、数冊の本を取り出してそれを読んだ。
時間が来ると、ロボットは俺を食堂に連れて行った。
俺は自分の食べるものを自ら作り、それを食べた。
食事の後にはシャワーを浴びさせられた。
お湯はきちんと出た。
電灯もちゃんと点いていることを考えると、どうやら、電力やガスの供給は止まっていないようだった。
俺は塀の外の世界について考えた。
刑務所は自家発電ではないはずだ。
電気が来るという事は、外の世界は数日前と変わらずきちんと存在しているということなのだろう。
シャワーを浴び終わると監房に戻された。
まるで、モルモットのような生活だった。
ロボットは、必要以上には俺を傷つけようとはしなかった。
ただ、静かに見ていた。
三つの目玉でじっと見ていた。
その視線は、まるで俺を観察しているように思えた。
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