| <無言のゆりかご> 窪璃音/著
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警官が車の扉に手をかけたとたん、辺りを揺るがす爆音とともに赤い炎が立ち上った。
ジニーの体は一瞬のうちに炎上した。
綺麗な金色の髪の毛も、滑らかな肌とつぶらな瞳も今は炎の中にあった。
人々はただ呆然として、目の前で起こった悲劇を見続けた。
辺りは怒りと悲しみの感情に包まれた。
清らかなる物が失われたというこの事実に対して、どのような解決方法も存在しないように思えた。
少なくともその時には……。
*
床に何かが置かれる音で目が覚めた。
明かりは扉の下に開いた横長の穴だけだった。
起き上がろうとしたら体が痛んだ。
俺は何があったのか思い出そうとした。
俺は何をした?
そうだ、グリーンの奴が食堂で俺に絡んできたんだ。そして、乱闘になった。
騒ぎはすぐに看守によって収められた。
そして、俺は騒ぎの首謀者として独房に放り込まれることになったのだ。
俺は反抗的な態度をとるので看守に嫌われていた。
主任看守のジェロムは特に俺を嫌っていたのだ。
だから、そんなたいした騒ぎでもないのに俺を棍棒で痛めつけ、この暗い独房に閉じ込めたのだ。
俺は床に置かれたものを見た。
皿の上にパンが置かれていた。
カビの生えたパンだ。
「こんなもんが食えるか!」
言いながら俺は扉を蹴った。
鉄の扉はガンガンという振動の余韻を独房の中にこだまさせた。
すぐに誰かがやって来る音がした。
俺は相手がジェロムだったら、パンを皿ごと投げ返そうと思った。
扉に取り付けられた中を覗くための小窓が開けられた。
小窓は郵便受けのように横長だった。普段は外側からスライドする蓋がされている。
俺はそこから皿を投げようと思ったのだ。
蓋が取られ、まぶしい光が入ってきた。
俺は瞼を閉じながらも、その向こうにいる者を見、それがジェロムであるのか見極めようと思った。
瞳が光になれ、ぼんやりとした視界がはっきりとしてきた。
俺は扉の向こうに立っている者を見る事ができた。
三つの目が俺を見ていた。
俺を見ていたのはジェロムではなかった。
それはジェロムではないどころか、人間ですらなかった。
*
俺は扉に近づき、それが何であるのか確かめようとした。
三つの目は機械的な感じがした。
ロボット?
どうやら、ロボットが俺を見ているようだった。
たくさんの配線がむき出しの瞳から出ている。
ビリッというショックが全身に走った。
俺は思わず扉から離れた。
扉に電気ショックのようなものが走ったのだ。
シャーという音と共に覗き窓が閉じられた。
それから、ゴツゴツという硬い足音は離れていった。
ロボットは行ってしまった。
奇妙な静寂がやってきた。
俺はしばらく呆然としてしまった。
あのロボットについて考えた。
今まであんなものは見た事がなかった。
この刑務所にはロボットの看守など雇われてはいないはずだった。
俺は、部屋の片隅にうずくまるようにして座った。
三日か一週間かわからないが、とにかくいつかはこの独房からでられるだろう、と思った。
それまでは、変化のないこの世界で体力を落とさないようにがんばろうと思った。
独房からでてきて体力が落ちているところを狙ってくる輩がいるからだ。
どんな頑丈な体でも、動かないことによる体力の低下は免れない。
腕立てをしようと体を横たえた時、何かが近づいてくる音がした。
たくさんの足音であるように思えた。
重い足音だ。
人の足音ではない。
ロボットがまた来たな、と思ったときに扉に鍵が差し込まれ、開く音が聞えた。
扉は開けられた。
いくつものライトが俺を照らした。
俺は外の太陽の光と、ライトで目の前が真っ白になった。
手をかざし、光を避けようとする俺に鉄の棒のようなものが当てられた。
そして、俺の体に電気ショックが走った。
俺はしびれた体で床に這いつくばった。
今度は俺の首にわっかがはめられた。
そして、そのまま廊下に引きずり出された。
*
俺は今、食堂で飯を食っている。
殴られて切れた口の中が痛む。
周りにはロボットどもがいる。
ロボットはきちんと看守の格好をしている。
体だけ見たら、本当の人間であると思うかもしれない。
だが、顔は明らかに人間とは違う。
むき出しの配線、赤く発光する三つのレンズ、鋭い光を放つ鉄製の骨格。
俺は他の囚人や看守はどこにいるのだろう、と思った。
広い食堂に人間は俺一人だったのだ。
一度、他の人間はどこに行ったかロボットに聞いた。
返事は電気ショックだった。
食事が終わると作業着に着替えさせられた。
それから、中庭に連れて行かれた。
中庭には小さく折りたたまれた包みが山と積まれていた。
ロボットは俺に穴を掘らせた。
俺は長い時間かかって大きな穴を掘った。
それから、指図されるままに、その穴に包みを運んだ。
包みは持つと割合に重く、そして、奇妙な柔らかさを持っていた。
透明ではないビニールでくるまれてガムテープで留められているので中は見えなかった。
運んでいる途中で、赤い液体が包みから染み出した。
それは血のように思えた。
俺はロボットの目を盗んで包みの端から中を覗いた。
それは肉であるように思えた。
俺は悪い予感が当たったと感じた。
きちんと確かめたかったので、包みを放り投げてみた。
わざとガムテープが千切れるように持ち、包みがばらばらになるようにした。
穴の中を転がっていったのは、人の手首だった。
指輪をはめていた。
見覚えのある指輪だった。
俺は、その手首がジェロムのものであると思った。
包みを乱暴に扱ったことに怒ったロボットが、俺に電気ショックを与えた。
この痛みは酷く、二、三分は立ち上がることができなかった。
立ち上がれない俺をロボットは蹴りまくった。
俺は体中が痛くて立ち上がれなかった。だが、すぐに立って作業に戻らないと再び電気ショックを与えられると思い、仕方なく立ち上がった。
作業は夕方まで続いた。
その間、休みは一瞬もなかった。
水を飲ませて欲しいと言っても無視された。
包みを全て穴に運ぶと、上から土をかけるように指示された。
全ての土をかけるとすでに夜遅くなっていた。
食堂で冷えたスープと硬くなったパンを食べた。
スープは少し酸っぱくなっていた。
電気はつけられていなかった。
ロボットの赤く光る目だけが明かりだった。
俺は暗闇の中、赤く照らし出されるまずい飯を食った。
食べ終わると、土だらけの体を洗わせてももらえずにそのまま監房に連れて行かれた。
鍵がかけられると、俺はベッドの上に横たわった。
眠りはすぐにやってきた。
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