ノーベンバーレイン{立読みサイト}

 [16]
 
「相談にのってくれんの?」
「あまりあてにしないで欲しいけどね。僕はそんなにいい相談相手ではないと思うから」
「いいのよ、それで。じゃあねえ、好きな食べ物はなんですか?」
「はい? それが悩みなの?」
「そうよ。私が初めに電話をかけた相手の好きな食べ物がなんだかわからないから死にそうに悩んでいるのよ」
「なんだよ、それ」
「いいから教えてよ、若いのにはきはきしないわね」
「大きなお世話だよ。それになんで僕が若いって知っているんだよ。実は僕の知り合いなのか?」
「声で年齢なんて推測できるわよ」
「カレー」
「何?」
「カレーは三日に一回は食べてるかも」
「インド?」
「タイ風のスープっぽいやつ」
「そう、辛党なの?」
「どちらかと言えばね。甘いものも嫌いではないけど。あんこは粒あんが好き、こしあんは嫌い、白いのも嫌い」
「なるほど、覚えておくわ」
「覚えてなくていいよ」
「じゃあ、次」
「まだあんのかよ」
「あるわよ。互いによく知り合わないとね」
「互いにって、君は自分のことは全く話していないじゃないか」
「私のこと?」
「そうだよ。人に何かを質問する時は自分のことをまず話すものじゃないか?」
「ううん……そうねえ。そういうものかしら」
「そういうものだよ。話さないならもう切るからね」
 正体のわからない彼女との会話は、実際にはそれほどつまらないというものではなかったけれど、これ以上彼女と話さなければならない理由というのも僕にはなかった。
「待って待って、切らないでよ。そうだ、じゃあ会って話しましょうよ」
「会う? さっきも言ったけど僕は何も買わないし、どんな契約もしないし、判子も押さないよ。だいたい僕は今決まった職というものがないからお金を持っていないんだ」
 僕はこんなことあまり自慢げに言うことではないな、と思いながら言った。
「だから、営業の電話じゃないんだってば、お茶ぐらいなら私がおごるわよ。それでいいでしょ」

<<15 17>>