ノーベンバーレイン{立読みサイト}

 [10]
 
 僕らはエジプト風に過剰に装飾された椅子に腰掛けた。テーブルにもそれらしい模様が描かれている。こういうところはどこまでも徹底しているのだ。この街ではそういうことを徹底して行わなければ、生きていけないのだ。
「海外は初めてなの?」
 彼女が訊いてきた。いいえ、と僕は首を横に振った。
「前にドイツに行ったことがあります。十六歳の頃に」
「遊びに?」
「いいえ。その時つきあっていた子が家の関係でドイツに引っ越したんで、冬休みに会いに行ったんですよ」
「じゃあ、一人で行ったの?」
「そうですね、結果としては」
「結構若くして旅をしたのね」
「まあ、そう言えると思いますよ。だって、あっちに行ったのに初日にふられて、仕方がなく一人でドイツをぐるぐる巡って、たくさんの人と出会ったけど、僕より年下の日本人とは会わなかったから。大学生はたくさんいたけど」
「そうでしょう」
 彼女はジュースをストローでぐるぐるかき回しながら言った。
「でも、別にたいしたことではないですよ。エベレストに登りに行ったわけじゃないし、地雷が埋まっている平原を歩いたわけでもないですから」
「でも、行って初日にふられたってのはすごいわね。行く前にそうなるってことわからなかったの?」
「わかってましたよ。だけど海外に行ってみたかったんですよ。大体ふられた理由は彼女に会いたいというよりも、そこに行ってみたいと思っている僕に問題があったからとも言えるのだから」
「なんだ。じゃあ、彼女はどうでもよかったの?」

<<9 11>>