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ノーベンバーレイン{立ち読みサイト_モバイル版}
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──家の電話が鳴っていた。
一九九四年八月のその日は、気温はそれほどでもなかったが、前日の雨のせいで異常に湿度が高かった。時折吹く、むっとするような夏の風は僕からあらゆる気力や体力を奪っていった。
僕の家は古くさい造りの日本家屋で、適度に風が入り、普段ならそれほどは暑くならず、過ごしやすいのだが、その日に限ってはだめだった。
僕の部屋にはもちろんクーラーというものが備わっていたが、どうにも人工的な冷たい空気は僕の体質には合わないため、熱中症になりそうな夜以外ほとんど起動させたことがなかった。
僕は廊下の板張りの上にゴザを敷き、さらにその上にバスタオルを敷いて腹這いになって寝ていた。昼飯に冷や麦を食べてから全く何もする気が起きなくなっており、横になって、ただ流れ落ちる汗をバスタオルにしみ込ませていた。空にはいくつかの雲の固まりが浮かんでおり、たまにはその影を街に落としていたが、充分に熱された町々には蜂鳥の羽ばたきほどの風も起こらず、ただひたすらに暑かった。
電話のベルはいまだ鳴り続けていた。
家には僕一人しかいなかった。元々この家は僕の母親の父親、つまり僕の祖父の物であったのだが、彼が亡くなってからは僕しか住んでいる者がいなかった。母親は、今は銀座で営んでいる日本料理屋の二階を主な生活の場としており、この家にはたまにしか来なかった。
電話のベルは鳴り続けていたが、僕はしばらく立ち上がる気がせず、そのままにしておいた。
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