携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第十七章
[Q002]
いくつもの水溜りを越え、暗い敷地内をしばらく歩くとその先に涼子が眠っている銀色の冷蔵庫が並ぶ場所が見えてきた。
保安上どうなんだろう、とは思ったが、実際には遺体を盗みに来る人やいたずらをする人はほとんどいないだろう。
そこは誰でも入り込めるところだった。
扉には鍵がついているので開けることはできない。
だが、触ることはできる。
僕はルービックキューブのように並べられた冷蔵庫の真ん中の扉を触った。
そこに涼子が入っているはずだった。
扉はひんやりと冷たかった。
僕の足元を雨が流れていった。
霧になった雨粒が僕の服を濡らしていった。
僕はしばらく扉に手を当てていた。
中に涼子の存在を感じた。
顔を近づけ、耳を扉に当てた。
聞こえる音は唸るようなブーンという機械音だけだった。
僕は雨が流れていない部分を見つけてそこにあぐらをかいて座り込んだ。
そして冷蔵庫を見上げた。
細かい傷が入った銀色のステンレスの扉が静かにそこに存在していた。
雨がプラスチックの屋根にあたり、バタバタという音を立てていた。
他には何の音も聞こえなかった。
僕はこの冷たい扉の向こうに涼子がいるということが信じられなかった。
三日前には厚手のカーディガンにくるみ、薄くミルクを流したような雲の下を抱きかかえ歩いたというのに、それはとても昔のことに思えた。
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