携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第十五章
[O002]
十年前の若い彼には写真家になるという夢があった。
そして、美しい少女であった響子をモデルにいくつもの作品を作った。
だが、結局、その夢は果たされず、その代わりにいくつもの高級クラブの経営で富を手に入れたのだ。
だが、響子の心には全く手が届いていなかったのだ。
もしかしたら一瞬も響子の聖域に入り込めなかったのかもしれない。
多分だが、それでも彼は何かと戦ったのだと思う。
そして敗北したのだ。
これは僕の予想で真実がどこにあるのかはわからない。
だが、大体においてそういうことだと思う。
響子はよく僕の家でぐったりと横になっていた。
ふいにやって来ては、長い旅をし、ようやく約束の地にたどり着いた流浪の民のような安らかな顔で横になっていた。
僕が、縁側で横になり庭を見ている響子にアイスティーを持ってくると、彼女は少し顔を上げ、両手を伸ばした。
僕は縁側に座るとアイスティーの入ったグラスをそばに置いた。
響子は両手を僕の体に回すとよじのぼるようにして僕のひざの上に顔をのせてきた。
そして、横になったままグラスをとり、ストローに口をつけてそれを飲んでいた。
僕が横着な人だな、と言うと、彼女は少しだけ笑ってカップを床に置き、また僕の体に両手を回して僕に溶け込もうとしているかのように抱きついてきた。
僕は響子が何故こんなに愛に飢えているのか、何となくの理由はわかってもなかなかそれを理解することはできなかった。
それに僕自身も愛に飢えていてそれどころではなかったのだ。
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