携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第十四章
[N002]
「でも、言い争いもしているのね」
「言い争いじゃないよ。それは複雑で君にきちんとは説明ができないことなんだよ」と僕は言った。
「それで、枕を濡らしてんのね」と瞳は言った。
僕は笑いながら「古い言い回し知っているなあ」と言った。
「かわいそうに」と瞳がぽつりと言った。
僕はそうだね、この人はかわいそうな人とも言えるかもね、と答えた。
「馬鹿ね。あなたのことよ。私の馬鹿な馬鹿なお兄さんがかわいそうって言ったのよ。
本当に馬鹿よ。馬鹿でかわいそうな人よ」と瞳は言った。
僕は黙っていた。
少しして、「そういえば、この間、田部さんに会ったわ」と瞳が言った。
「そうなんだ」
「渋谷で偶然。食事を奢ってもらったわ」
瞳は僕の動きを見ながら言った。
「あいつの連れて行くレストランってまずくなかったか?」
僕は訊いた。
「そんなことなかったわよ。おいしいところだったわ」
瞳は首を振った。
「それは運がいいね」
「食事の後にホテルに行ったわ」
「おい、嘘だろ」と僕は動きを止めて言った。
「本当よ。田部さんはこう言ったのよ。
『瞳。僕は君を抱きたいんじゃないんだ。僕は君に抱かれたいんだ。
僕は時々抱かれていないと壊れてしまうんだ。それは誰でもいいわけじゃないんだ。
僕は君に抱かれたいんだ』って。
ガードレールに腰掛け、前に立つ私の体に手を回して私を見上げて言ったの」
ふうん、と僕は言った。
それからわざとゆっくりとコーヒーを飲んだ。
飲み終わると、それで? と訊いた。
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