携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第十章
[J002]
「ずっとあなたに目がささっていたのよ。あなたは気がつかなかったかもしれないけど」
響子が言った。
僕らはギャラリーから五分ばかり歩いたところにある英国風のバーにいた。
店内は暗く、お客は皆静かに煙草を吸ったり、ぼそぼそとつぶやくようにして話したり、お酒を飲んだりしていた。
僕は響子がそんなことを言うなんて信じられなかった。
僕は全くそんなことには気がつかなかった。
僕だって響子に目がささっていたのだ。
それはもう響子に穴が開いて、そこにあらゆるものが吸い込まれてしまいそうなくらいにじいっと見つめていたのだ。
でも、響子の方が僕を見つめていたなんて気がつかなかった。
彼女には特殊な場所に隠された目でもついているのだろうか、と僕は思った。
「いつ? 全く気がつかなかったよ」
「最初にギャラリーに入ってきた時からよ。綺麗な子が入ってきたって思って緊張したわ」
僕は目の前に置かれたスペアリブの肉を骨からはがすように細かく切って、そのうちの一つを口に運んだ。
それから琥珀色のビールを一口飲んだ。
「綺麗な子って僕のこと?」と僕は訊いた。
「ええそうよ」と響子は言った。
「そんな風に言われたことはないな。確かに童顔で女顔かもしれないけど」
「綺麗な顔をしているわ。女性に間違われたことってないの?」
響子が訊いてきた。
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