携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第十章


[J001]


僕はまさか響子が電話してくるなんて思わなかった。

だけど、彼女は電話してきた。

あのパーティーから一週間後のひどく寒く、軒先にはつららの小さいのまでできていた日に、彼女は電話してきた。

僕は自分の家の受話器から響子の声が聞こえることに罪悪感さえ覚えた。

電話してみました、と響子は言った。

はい、と僕は言った。

僕はその後、何を話したのか憶えていない。

全くと言っていいほどだ。

でも僕らは長いこと話した。

もし僕に尻尾があったら、次の日は筋肉痛で動かせないだろう。

もしくはちぎれてしまって医者に連れて行かれたかもしれない。

それぐらい激しく振ったと思う。

最後に響子はまた電話するわ、と言って電話を切った。

僕は受話器を手に放心状態で立っていた。

しばらくの後に受話器を置くと、やはり放心状態のまま涼子のベッドに行き、横にもぐりこんだ。

涼子は僕の髪の毛を引っ張って遊んでいた。



三日後、僕はギャラリーへと向かった。

響子は受付にいた。

僕は周りを確認して、他のスタッフや客がいないことを確認して、ギャラリーの扉を開けて中に入った。

そして、彼女に仕事が終わったら食事をしないか、と言った。

響子は少しだけ考えていたが、やがて、八時に仕事が終わるからその後でよければ、と言った。

僕はその返事を聞いた瞬間、月にも飛んで行きそうなくらいうれしかったのだが、実際には平静を装って、じゃあ、それくらいにまた来ます、と言ってギャラリーを出た。

ギャラリーを出て、しばらく歩いてから小さくガッツポーズをとってみた。

それでも喜びが僕の中で暴れていたので、田部に電話して響子と食事をすることになったと言った。

田部はああ、そう、とそっけなく言った。



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