携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第九章


[I001]


僕は響子に会いたかった。

とはいうものの、その後、しばらくあのギャラリーに足を運ぶことはできなかった。

僕が見た展覧会はあの時からしばらくやっており、それを二回見に行くのは不自然だと思ったからだ。

展示物も見ずにギャラリーへ行って、ただ響子と話すのもなんだか下心が丸見えなので僕にはできなかった。

僕はギャラリーどころか、その近くの路地を歩くことすらもはばかられた。

母親の店に行く時、偶然道端で会えればいいなとは思っていたのだが、実際遠くから響子の姿を見かけたら僕は姿を隠してしまいそうであった。

彼女と会いたいという気持ちは強く、会えればいいなと思ってはいたのだが、どうにも、「やあ偶然ですねえ」と駆け寄って声をかけるなんてことはできそうに思えなかったのだ。

奇妙な緊張がそれには伴うし、なんとなく当時の僕にはそれが恥ずかしいことに思えたのだ。

僕はそれからしばらく悶々とした日々を過ごした。

学校にはほとんど行かなかった。

家で涼子の相手をしたり、本を読んだり、ビデオを見たりしていた。

運転免許をその年の四月にとったので学校へ涼子を迎えに行ったりした。

涼子の通っていた養護学校はバスで送り迎えをしてくれるのだが、いろいろなところを回るため、涼子は二時間近くバスに乗っていなければいけなかった。

そのため、僕はできる限り彼女の送り迎えをしてやった。

天気のいい時は時折そのまま車で遠出した。

鎌倉の方まで行って、夜遅くに帰ってきて母親に叱られたりした。



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