携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第八章


[H001]


 *


──アメリカで起こったいくつかのことについて話す。それは日本にいては決して味わえなかったことだ。



モーテルに泊まる時はいくつかのことに注意しないと不愉快な想いをすることもある。

ラスベガスからロサンゼルスに戻ってきて最初に泊まったモーテルは、罠の匂いを漂わせていた。

だが、僕はアメリカのモーテルは初めてだったので、それに気がつかなかった。

田部はもう二ヶ月もここら辺にいるくせに気がつかなかったらしい。

というか、彼はいつも悪いクジを引きがちなのだ。

彼が選ぶレストランでうまいと思ったところは一店もない。

道もよく間違う。

ラスベガスで多少なりとも勝ったのは奇跡に近い。

そのモーテルはまず臭いがきつかった。

体臭がきつい人の臭いがする。

何故、建物が人の体臭くさいのかは理解に苦しむ。

それでも僕らは他のモーテルを探し回るのも面倒だったので、そこに泊まることにした。

部屋に入ってテレビをつけると、いきなり髭のマッチョが四人でまぐわっていた。

僕と田部は目が点になった。

チャンネルを回すと、今度は金髪白人の女が白人のマッチョとまぐわっていた。

部屋には絨毯が敷かれていたのだが、奇妙な模様が描かれていた。

よく見るとそれは模様じゃなくシミだった。

僕は何のシミかは考えないことにした。

バスルームに入り、バスタブにお湯をためてみた。

するとなんだか、白い粉末というか、破片というか、垢のようなものが浮かんできた。

僕らは仕方がないのでスーパーに洗剤を買いに行った。

スーパーから戻ってくると廊下をものすごい勢いで黒人の子供が走っていた。

そして扉をちょっとだけ開けてこちらを覗いている血走った目があった。

僕らはいやぁな感じを持ったまま部屋に戻り、洗剤でごしごしとバスルームを洗った。



僕は田部が日本に帰った後も、その時の洗剤を持ち歩いて旅を続けた。

ふらふらと、その日思いついた方角に足が向くままに旅を続けた。


 *



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