携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第七章


[G012]


くそっ、と言いながら僕はそのサングラスを畳み両手で持ち、膝蹴りを浴びせた。

サングラスはバキッと堅い音を立て二つに折れ曲がった。

レンズはひび割れ、いくつかが僕の手にめり込んだ。

僕はそれを振りかぶってアスファルトに叩きつけた。

レンズがフレームから外れ、きらきらとした破片が散らばった。

僕は右足を上げて、まだフレームに残っているレンズを何度も何度も踏みつけた。

僕はそんなことはしたくなかった。

でも、僕の中で何かが燃え上がっていて、それを消すことができなかった。

レンズは踏まれる度に粉々になっていき、フレームはひしゃげていった。

もうほとんどサングラスとしての形状が見る影もなくなると、僕はそれを拾い上げた。

そして工事現場のフェンスの向こうへと投げ入れた。

カランカランという軽い音が聞こえた。




僕は肩で息をしていた。

手のひらを何かが流れていく感覚があった。

見るとレンズの破片が刺さったところから血が流れていた。

血はねっとりとしていた。

僕は瞳と渡海を見た。

渡海はやれやれという顔をしていた。

瞳は目を見開いたまま両手で口を押さえていた。

僕の中で燃え上がっていた何かは消えていた。

まるで波打ち際の足跡を波が消し去り、平坦な砂浜にしてしまうように、それはすっかりと消されていた。

瞳は僕の手を見た。

僕の赤く染まった手を見ていた。

僕は彼女をおびえさせたのかもしれないと思った。

そして、それは僕の望んだことじゃないと気がつき、少し恥ずかしくなった。

でも、瞳はおびえてはいなかった。

彼女は自分のポシェットからハンカチを取り出すとそれを僕に渡した。

僕はハンカチで手の傷を押さえた。



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