携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第六章
[F007]
だけど実際にはそんな魔法のカスタネットなんて、この世にはなかった。
だから、僕はぼけっとして走り去るベンツの、ネオンの光を反射して鋭く光るバンパーを見るしかなかった。
ジーンズのポケットに両手をつっこんで、馬鹿みたいに口を半開きにして……。
それから駅まで二人のスタッフと話しながら歩いた。
彼女達と僕は帰る方向が逆であったため、僕らは駅構内で別れた。
僕は電車の中でずっと響子のことを考えていた。
僕は彼女についてもっといろいろなことが知りたかった。
単純に知りたかった。
でも、その時は、望んでも無理であるように感じられた。
たとえそれが手には入ったとしても、その後はかなりの困難を伴うように感じられた。
でも僕はそれができないとは、全く不可能なことであるとは思えなかった。
確かにその時の僕にはたくさんのモノが足りなかった。
自らが持っているモノと持っていないモノを比べれば、明らかに持っていないモノの方が多かった。
それはよくよくわかっていた。
それでも僕は単純には答えを出してあきらめることはしたくなかった。
いや、したくなかったというよりも、十代後半の不安定でありながらも力強い精神が宿る、巨大な爆発力を持つミサイルのような存在であった僕には、その時あきらめるなんてことは考えつかなかったのだ。
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