携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第六章
[F006]
事務所を出るとすでにギャラリーの明かりは消えていた。
響子は受付周りを整頓していた。
散らかったパンフレットを整列したり、埃を箒で掃いたりしていた。
閉める支度は簡単ですぐに終わったようだった。
僕と二人のスタッフと響子はすでにかなり暗くなった路地へと出た。
そして、話しながら大通りへと向かった。
僕は響子がどこへ帰るのだろうと思っていたが、何となく訊くことができなかった。
大通りに出ると、車のクラクションの音がした。
車はゆっくりと僕らに近づいてきた。
車は縦目のベンツで、四十代中ほどの身なりのいい男性が運転していた。
響子は二人のスタッフと僕に別れの挨拶をすると、そのベンツのところへと歩いていった。
そして、ベンツのドアを開けると乗り込んだ。
僕は彼女のその様子をじっと見ていた。
何ということもないのだが、思わずじっと見てしまったのだ。
響子を乗せたベンツは軽快に走り出した。
響子は僕らの前を通り過ぎる時に軽く手を振った。
僕はこの時ほど魔法のカスタネットが欲しいと思ったことはなかった。
そのカスタネットをカタカタッと手の中で叩いてやると、みすぼらしい僕の格好は一流の品よいブランド物に変わるのだ。
ついでに年齢も十くらい上がる。
もう一度叩くと、今度は目の前に月までも飛んで行きそうなかっこいいスーパーカーが現れ、さらに叩くと大通りにきらきらとしたたくさんの星が降ってくるのだ。
それはすごく幻想的で感動的なシーンであるのだ。
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