携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第六章
[F004]
僕は彼女が浮かべた微笑みに完璧に心が捕らわれていた。
そしてすぐに思ったものだった。
僕はこの人と結婚する!
で、このことを渡海に話したら、やっぱり奴は腹を抱えて笑っていた。そして言った。
「早すぎじゃないか、ミズサワ? そんなに妄想が早すぎるからいろいろ失敗するんだ」
確かにそうだ。
確かに僕は妄想を見がちだ。
だけど、頭の中で思うくらいいいだろう。
誰に迷惑をかけているわけでもないし。
考えただけで地獄に堕ちるようなことでもない。
それにいきなりそれで次に言う言葉が「結婚して下さい」ってなわけでもない。
じゃあ、何て言ったか?
というよりも、事態は僕の予想できない展開になったので、僕は結局その後何て言ったか覚えていない。
僕に話しかけられた響子は何故か席を立ち、受付のテーブルの手前に歩いて出てきたのだ。
響子は思ったよりも背が高かった。
僕と同じくらいだった。
もっとも彼女はハイヒールを履いていたので、実際には僕よりかは少し身長が低い。
それでも、僕は彼女はもっと小柄な人だと思っていた。
響子と僕はその後五分ばかり何かを話したらしい。
でも何を話したのかは覚えていない。
全く覚えていない。
多分僕はただひたすらに一生懸命彼女の話を聞いて、それに応えていたのだろうと思う。
そして一生懸命に彼女のことを見ていたのだろう。
その間お客は全く来なかった。
時間も遅くなっていたし、元々そんなに人が入るようなギャラリーではないのかもしれない。
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