携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第六章


[F003]


でも、その日の僕を襲った衝撃はそれまでに味わったことがないものだった。

僕はなんとかして彼女と話したいと思った。

ただ純粋に何かを話したいと思ったのだ。

勇気を出して……と書くと、なんだか気恥ずかしいが、実際にはかなりの勇気が必要だった。

この時のことを渡海に話したら奴は腹を抱えて笑っていた。

らしくない、とか、その姿を見たかった、とか、言っていた。

確かに口ごもりながら彼女に話しかける僕の姿は滑稽だったかもしれない。

でも事実は本当に僕は勇気を出して、心の中でいろんな言葉をつかって自分を奮い立たせて、パンフレットを片手に受付の前に歩いていった。

そして言った。

「あ、あの、このギャラリーはこういうのをよくやっているんですか?」

なんて間抜けな台詞。

いじめたくなる奴の言う台詞だ。

響子はすぐに柔らかな笑みを浮かべながら「そうですね」と軽い口調で答えた。

響子の顔は目鼻立ちが芸術的に見ても絶妙なバランスを持っていた。

大きな瞳やしっかりと描かれた眉はエキゾチックな雰囲気に溢れていた。

もしかしたら日本人ではなく少し南の人の血が混ざっているのではないか、と僕はその時思った。

髪は黒いのだが、普通の黒さではなく、漆黒というのかどこか普通の人よりも黒の密度が濃い感じがした。

肩先までのその黒髪を、響子はきっちりと後ろで纏め、かんざしのような髪留めで留めていた。

頭の形がいいせいか、その髪型は響子によく似合っていた。

彼女の顎は小さく、そのせいか口も小さかった。

が、その唇は小さいながらもしっかりとその存在を主張していた。

唇にひかれた口紅は南国の華を思わせる明るい朱だったが、全く嫌みではなく、彼女の吸い込まれるような黒い瞳とともに薫るような色気を漂わせていた。



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