携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第五章
[E004]
涼子の手は普通の幼児の半分くらいの大きさしかない。
指の爪にいたっては三ミリメートル四方くらいしかない。
厚さも紙みたいなものなので爪を切るにも細心の注意が必要だった。
よく爪を切られ過ぎて血を出していた。
耳もまた同様に小さく、耳垢をとるのも一苦労だった。
しかも耳の場合はくすぐったいためか顔をしきりに振って暴れるし、小さな手で一生懸命反抗するので余計に大仕事になる。
それでも慣れてくると、僕は涼子の手を足で押さえて素早く耳垢をとってやることができるようになった。
端から見ているとそれは酷く乱暴に彼女を扱っているように見えるようだった。
確かにそう言われてみればそうだったが、案外涼子は丈夫な子で滅多に怪我をしなかったし、泣くこともなかった。
むしろ乱暴に抱きかかえて振り回したりすると、けたけたと笑っていた。
涼子は、十三歳と十ヶ月で亡くなった時と生まれてきた時の身長や体重の違いは、ほとんどと言っていいほどなかった。
身長は十数センチしか伸びなかったし、体重もほんの数キロしか増えていない。
だから、僕はもしかしたら彼女は僕ら普通の人間よりも寿命が長いのではないかと思ったほどだった。
普通の十分の一くらいしか成長しないのならば、寿命は十倍になってもよさそうな気がしたのだ。
だから、彼女はいつまでも変わらないなあ、と思っていたのだが、こうやって思い返してみると、結局、彼女は自分の口から食事をとるようになったし、年をおうごとに何やらもごもごとか、ぶうぶうとか、割合話すようになっていた。
そしてきちんと家族のことを見分けるようにもなったわけで、彼女は彼女なりに成長していたんだなあ、と今さら気がつく。
コルネリア・デ・ランゲ症候群というのは病状にかなりの差があって、軽い人だとほとんど普通の人と変わらない。
ちょっと毛深いくらいなものですむ人もいる。
でも涼子の場合は違った。
[→次]
[←前]
↓窪璃音のHP(PC用)
小説オンライン