携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第五章


[E003]


涼子は一歳になった時、僕らの家へとやってきた。

彼女の体は生まれた時よりは多少丈夫になっていた。

だが、それでも自分で思い通りに体を動かすことはできなかった。

食事を口からとることはできず、カテーテルというビニールの管を鼻から入れて、それを通して直接ミルクやなんかを胃に入れて栄養補給をしていた。

このカテーテルはくせもので、鼻から入れる時にはくすぐったくてくしゃみが止まらないし、軌道がそれて肺の方に行ってしまうと、時々肺を傷つけ血が逆流してくることもある。

僕も一回自分の鼻に入れてみたが、その違和感たるや何とも言えず、なんて言うか、とりあえずこんなものをつけないで食事をとることができてよかったと思った。

大体、噛むことをしないので食べているという感じは皆無だし、食べ物の味を味わうということはむろんできないのだ。

なんだかわからないけど体の中に何かが入ってきて、それはどうやら栄養になるようだぞ、と体が思って、勝手にそこからエネルギーを摂取しているだけなのだ。

ミルクはガラスの注射器に入れて、それをカテーテルの管に刺してちゅーっと流し込む。

カテーテルは半透明なのだが、そこを真っ白いミルクがきゅーっと入っていくのだ。

ちょっとおもしろい状況ではある。

涼子は胃に何かが入って来るというのはわかるらしく、ミルクを注入してやると、じっと眼を閉じて口をもごもごさせる。

表情に少し幸せそうな感じが漂う。

涼子にとってカテーテルは生まれた時からつけているものなので、それで食事をとるということには何も違和感がないようだったが、カテーテルを顔に固定させておくテープがかゆくなるらしく、よくそこを引っ掻いて顔に傷を作っていた。



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