携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第五章
[E002]
──涼子について話そう。
僕には六歳違いの涼子という妹がいた。
涼子はコルネリア・デ・ランゲ症候群という病気だった。
彼女は生まれてからすぐ集中治療室に入れられ、長い手術をした。
内臓が所定の位置になかったし、右心室と左心室を隔てているはずの心臓の壁にも穴が開いていた。
手足も普通の赤ん坊よりも明らかに小さくて脆いものだったのだ。
手術は一応成功した。
あんなに小さな体の患者に手術をするなんて、とっても大変なことだと思う。
彼女が亡くなった時、僕は涼子の手術をした医者に感謝した。
とても酷い状態で生まれてきた彼女が、十四歳になる少し前まで生きられたのはその腕のいい医者のおかげであるのは疑いがなかった。
僕はその医者の名前も知らないが、彼、もしくは彼女の存在にとにかく感謝した。
結局のとこ、僕が涼子に会ったのは、彼女が生まれてから三ヶ月くらいしてからだった。
彼女は無菌室に入れられている小さな小さな赤い小猿だった。
六歳になろうとしていた僕は、あんなのが自分の妹だなんて全く信じられなかった。
涼子なんて静かな名前は全く似合わなかった。
眼は閉じたままで全然と言っていいほど動かなかった。
病室は不気味なくらい白い光に溢れていた。
無音の中、点滴の液体だけがぽたぽたと落ちていた。
涼子が入院していた病院は大きく、天井に設置された小さなモノレールのようなものが、何かを自動的にどこかへと運んでいた。
病院というよりもなんだか研究所や実験場のような雰囲気だったのを覚えている。
涼子はそんな建物の中に一年間いた。
彼女はその間ほとんど僕ら家族に触られることなく、徐々に体をなんとか病院の外の世界で生きられるように形作っていったのだ。
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