携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第四章
[D009]
街のビルや信号や街路樹や標識やガードレールやコンビニの明るい看板や横断歩道や踏切の音に現実感が湧かなかった。
大通りでは道路工事をしていた。
警備の人が赤く光る棒を振っていた。
アスファルトを砕く機械の音が鳴り響き、撃ち合いの激しい戦場にいるような気がした。
でも、僕にはそれが現実の世界で起こっていることだとは思えなかった。
車が猛スピードで駆け抜けていった。
車にはきちんと人が乗っていた。
でも、その人は僕の目の前を通り過ぎて角を曲がったところで、この世から消えてしまう存在であるように感じられた。
必要なのは僕の視界に入る部分で、あとのところは張りぼての世界であるような気がしていた。
僕はもう少しだけ瞳と話がしたかった。
もちろん父親の家の電話番号は知っている。
だけど、電話はかけられなかった。
父親や泉さんが出ると何と言っていいかわからなかったし、瞳も彼らがそばにいると、ええ、とか、そう、とか、当たり障りのないことしか言わないだろう。
そんなのは会話じゃない。
僕は現実世界にきちんといる彼女と話がしたかったのだ。
家が近づいてきた。
ずいぶん歩いた気がしたが、あっという間に家に着いた。
家の中はひっそりとして暗かった。
僕は明かりをつけずにシャワーを軽く浴び、楽な格好に着替えてベッドに寝転がった。
頭も心も体もなんだかそわそわしていたが、僕はなんとか寝ようとした。
眼をつぶり、静かに深呼吸をした。
開け放った窓からは、気持ちのいい風が入り込んできていた。
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