携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第四章
[D008]
「名前? 言わなかった?」
瞳が首を傾げた。
僕はうなずいた。
その時、父親が泉さんとともに店を出てきた。
「俺達は帰るけど、お前はどうする?」
父親が訊いてきた。
「僕も家に帰るよ。やることがあるんだ」
僕は言った。
父親はそうか、と言った。
父親が誰と結婚しようと、基本的には僕に関係のないことだった。
法律的には僕は母親の子であるのだ。
だから、厳密には瞳は僕の妹になるわけではない。
たとえ、法律的になったとしても、それはそれ、これはこれ、あれはあれ、という感じがする。
僕には彼らの家族の輪に入る気はなかった。
僕の家は今のところ一つしかないのだ。
彼らは父親が止めたタクシーに乗り込んでいた。
泉さんは僕に挨拶をしたが、瞳は何も言わずにタクシーに乗り込んでいった。
タクシーは彼らを乗せると夜の街に消えていった。
僕はすぐに帰る気がせず、しばらく街を歩くことにした。
奇妙だった。
正直言って、瞳が自分の近くにいることに少なからず喜びを感じていた。
彼女は頭のいい子だし、僕と波長が合う。
でも、こんなに近くにいるというのには少々戸惑いを感じていた。
それはなんと例えればいいのか僕自身わからなかった。
ただ、本当に奇妙な感覚におそわれて、なんだか体がそわそわしていた。
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