携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第四章


[D004]


見たことのある顔だった。

名の売れている写真家だと思った。

彼女は確か父親の雑誌の仕事もしているはずだった。

「知っているかもしれんが、彼女は写真家の叶泉さんだ」

父親が言った。

彼女は椅子に座りながらよろしくね、と言った。

僕は軽く挨拶をした。

「それから、こっちが娘の瞳だ」

僕は父親がひく椅子に座ろうとしている少女を見た。

おやおや、と僕は思った。

この間とは違い、髪にパーマをかけていたし、サングラスもしていなかったが、彼女は間違いなく、先週奇妙な電話をかけてきたあの少女だった。

瞳か、と僕は思った。

結局、彼女の名前は知ることになった。

瞳は伏し目がちに前を見て少しだけ頭を下げて、どうも、と言った。

僕とは眼を合わさなかった。

彼女は薄い水色のさらさらとした光を放つワンピースを着て、小さな蒼い宝石がはまったペンダントをしていた。

この間の格好とは全く違うものだが、彼女にはよく似合っていた。

僕らはその後運ばれてくる料理を食べながら話をした。

とはいえ、話していたのはほとんど父親で、たまに泉さんが何か意見を言い、僕に質問をしてきた。

僕はその質問に応えるだけで、自分からはあまり積極的に話をしなかった。

別に泉さんが嫌いなわけでも父親と仲が悪いわけでもないのだが、何となく話すことが思いつかなかったのだ。

瞳は全く口を開かなかった。

ただ黙々と食べたり飲んだりしていた。

まるで一人で食事に来て、たまたまテーブルが相席になった人のように、わざと僕らを無視しているようだった。



[→次]
[←前]



[ノーベンバーレイン目次]
[ノーベンバーレインTOP]



[窪璃音の携帯小説TOP]

↓窪璃音のHP(PC用)
小説オンライン