携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第四章
[D002]
電話は敵艦隊を発見した時の潜水艦のサイレンのようにけたたましく鳴っていた。
僕は体を起こし、電話のところに行った。
はい? と僕は言った。
「ああ、俺だ」と電話の向こうで父親の声がした。
「うん、何?」
父親が電話をかけてくるのは珍しいことだった。
「今週末はどうしてる?」
「別に用事はないけど」
「じゃあな、金曜日の夜に飯を食おう。平気か?」
僕は少し考えた。
だけど、考えるまでもなく用事はなかった。
「いいよ。どこで?」
「〈M〉で食おう」
〈M〉? 男二人で行く店じゃない。
「はあ、まあ、いいけど、じゃあ、夕方会社の方に行くよ」
〈M〉は父親の会社のそばにあった。
「七時くらいに来てくれ」
父親はそう言うと電話を切った。
ツーツーという音を出している受話器を、僕はしばらく見ていた。
それからそれをそっと電話機の上に置いた。
縁側に戻ってまた寝転ぼうかと思ったけど、心がそわそわしたので、部屋の掃除をすることにした。
結局、その日は長いこと掃除をした。
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