携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第四章


[D001]


──変な女

結局、それは小さな女の子だったのだけれど、彼女からの電話があった、あの夏に戻ろう。



珍しく湿気の少ない風が気持ちよく吹いていて、過ごしやすい夜だった。

僕は何をするわけでもなく家の縁側でぽかんとしていた。

何かをしたかったのだが、何をすればいいのかはわからなかった。

部屋は多少散らかっていたので、掃除しなければいけないなとは思っていたけれど、やる気も起きなかったし、今すぐにやらなければいけないことでもなかった。

何か音楽を聞こうかとも思ったが、何を聞いていいのかわからなかった。

渡海や田部に電話しようかとも思ったが、特に用事もなかったし、別段話したいこともなかったので、結局かけなかった。

それでも僕の中で何かが暴れていた。

月は空高くにあり、綺麗な円を描いていた。

小さな鳥が二羽やってきて、庭の桜の木に止まった。

彼らはつがいなのか、つかず離れずちゃかちゃかと枝から枝へと飛び移っていた。

それで何かがわかったのか、もう用はないという感じで、飛んできた方向へと飛び去っていった。

僕は縁側に座ってそれを見ていた。

彼らがいなくなると僕は上半身を後ろに倒して寝転んだ。

辺りは静かで何の音も聞こえないような気がした。

僕は眼をつぶって耳をすませた。

かすかに虫の音が聞こえた。

遠くの方で走り去る車の音が聞こえた。

風が戸を揺らす音が聞こえた。

僕は世界がなくなってしまったわけではないんだな、と思った。

僕の心がどんなに動揺しようと消沈しようと高揚しようと、そこにはきちんと変化しつつも壊れないものが存在していた。

それは永遠に狂うことがなく調律されたピアノのようなもので、ひかれることにより様々な物を創り出しはするのだが、決してある一定のルールからはみ出さないものだった。

僕がそんなことを考えながら夏の風を吸い込んでいると電話が鳴った。



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