携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第三章
[C005]
眼が開いたダマヤンティはすくすくと育っていった。
眼が見えないからおとなしい猫だろうという僕の考えは見事に外れ、ダマヤンティは家中を走り回って遊ぶ、ベーゴマみたいな猫に育っていった。
僕はイギーに悪いことしたなあ、と思ったりもしたのだが、イギーは走り回るダマヤンティを横目で見ながらひなたぼっことかしていた。
たまにダマヤンティが遊べ遊べ攻撃をイギーにしてくることがあって、そんな時イギーは短いしっぽを振って相手をしてやっていた。
一年ぐらいしたある日、父親から電話があった。
どうやらダマヤンティが妊娠して子供を産むようだと言う。
僕は父親の家に行った。
ダマヤンティは奥の書庫代わりに使っている小部屋にいた。
本棚から本をほじくりだし、それを垣根にして洞穴のようにした巣でもがいていた。
そばでイギーが心配そうな顔をして座っていた。
イギーは僕が行くとしっぽを振りながら近寄ってきた。
僕はイギーを抱きかかえ、ダマヤンティの巣を覗いた。
ダマヤンティはなんだか苦しそうだった。
結局、朝の三時くらいからダマヤンティは子供を産み始めた。
一匹、また一匹とちっちゃいネズミのような赤ん坊を産んでいった。
これが一年前に眼が見えない状態で道端に転がっていた小動物だとは僕には思えなかった。
僕にはその時、ダマヤンティが聖母のように見えた。
朝になって子猫達はもぞもぞと母親であるダマヤンティのおっぱいを求めて動いていた。
ダマヤンティは子猫達をなめていた。
大仕事を終えた後のダマヤンティはとてもとても立派に見えた。
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