携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第二章


[B014]


「そんなことを、冬物の帽子をかぶる夫婦を見るだけで思いついたの?」

僕は彼女に訊いた。

「そうよ、思いついたっていうより自然に頭に浮かんだだけよ。
あまり気にしないで。あなたにはどうでもいいことでしょ」

「まあね。でも、くだらない奴らのぎゃあぎゃあうるさいだけの話よりは百億倍おもしろかったよ」

彼女はそう、と言いながら、再び顔をうつぶせた。

綺麗な黒髪が彼女の横顔の上を流れていた。

小さな形のいい耳がその髪の間から見えていた。

「別に悩みがあったわけじゃないのよ」

彼女は横を見たまま言った。

「そう」
僕は応えた。

「それはなんとなく僕にもわかったよ。
でも、何ていうか、君が意識していないところに何かしらかの問題はありそうだね。それが……」

「そうよ。でもいいの」

彼女は僕が言い終わる前に言った。

それから立ち上がると、寒くなった、とつぶやきながら、レジの方へと歩いて行った。

僕らは店の外に出た。

日差しは強く僕らをウナギの蒲焼きのようにじりじりと焼いていた。

「で、どうする?」
僕は彼女に訊いた。

彼女はサングラスをかけ、唇をきゅっと閉じていた。

唇に力を入れるのが彼女の癖らしい。

僕はそれ以上何を言えばいいのかわからなかった。

「帰るわ」
彼女は言った。



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