携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第二章
[B013]
「大きいやつじゃなくて、すごくちっちゃいのよ。直径三センチくらいのがちょこんとのっていたのよ。
奥さんの方はティアラっていうの? 女の人が頭にのせる、きらきらした飾りがついたやつが頭の上にのっていたのよ」
「朝起きて、突然、そんなのがのっていたらびっくりするだろうね」
「そうでしょ。しかもそれはとれないのよ。とろうとすると痛いの。
で、朝起きて二人でどうしようってことになったのよ」
「どうして?」
「だって、今日は息子夫婦と久しぶりに会って食事することになっているんですもの」
「なんでそんなことがわかる?」
「細かいことはいいのよ、仮説なんだから。
それで、小さいとはいえ、きらきら光る冠をのせて街を歩くのって勇気がいるでしょう。だから……」
「だから、帽子をかぶっている?」
「そうよ」
「冬物の?」
「夏物をこれから買いに行くのよ、きっと。ほら松坂屋に入って行ったわ」
僕は老夫婦を見た。
老夫婦は松坂屋に入って行くところだった。
まさか、自分達が冬物の帽子をかぶってきたがために、こんな想像をされているなんて夢にも思わないんだろうな、と僕は思いながら彼らを見ていた。
「帽子を試す時に、冠を気にして素早くかぶっているところを想像すると、なんだかかわいくない?」
僕は老夫婦が人目を気にしながら夏物の帽子を試しているところを想像した。
いかにも平和そうに見える彼らの日常の、ちょっとしたスリルだ。
なるほど、彼らの行動がかわいいものに思えてきた。
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