携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第二章


[B012]


「わからないこと?」

「うん」

「何? 高校受験のこととか?」

「いや、それじゃないんだけど……」

言ってから彼女はしまったと思ったらしい。

神経質に右耳の小さなピアスをいじっていた。

「まだ、中学生なの?」

尋ねても彼女は答えなかった。

どうやら怒らせたらしいな、と僕は思った。

彼女はじっと窓の下を歩く人々を見ていた。

僕は何を言えばいいのかわからず、ぬるくなったコーヒーをすすっていた。

「なんでこんな暑い日に帽子なんてかぶっているのかしら?」

しばらくしてから彼女が言った。

えっ、と僕は首を傾げた。

「ほら、あそこの人、夫婦みたいな。二人して同じような厚手の帽子をかぶっているわ」

僕は彼女が指さす先を見た。

そこには老夫婦が歩いていた。

確かにこの夏の暑い最中にかぶるようなものではなく、秋冬用の灰色の帽子をかぶっていた。

「本人達にとっては帽子なしよりましなんじゃない?」

「でも、かなりむれそうよ」

彼女は両手を組んで机の上にのせ、うつぶせるような形でその上に小さな頭をのせた。

まだ、相変わらず視線は帽子の老夫婦に向いているようだった。

「わかったわ」

少しして顔を上げ、彼女は言った。

「朝起きたら頭の上に王冠がのっていたのよ」

はあ、と僕は言った。



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