携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第二章


[B010]


そのカフェは殺人的にクーラーが利いていた。

あまりに寒いので僕らは窓際の席に座り、そこから射し込む太陽の光で暖をとることにした。

いろいろなことが間違っていると僕は思ったが、最近では世の中はこんなものだろうとも思っていたので、あえて店員には何も言わなかった。

だが、目の前の小さな女の子は注文をする時に、ちょっと、寒過ぎるわよ。これじゃ、心臓麻痺で死んじゃう人が出るわよ。ほら、あそこの人なんていかにもじゃない? と言って、店の端の方に座ってぷるぷる震えている着物姿のおじいさんを指さして言った。

おじいさんはなんだか耐えることは美徳だとばかりにじっと眼を閉じて杖を手に震えていた。

店員は、すいません、と言って去っていった。

「厨房は暑いから気がつかないんだよ」
僕は言った。

「それでも寒過ぎるわよ。マグロになった気分よ」

「冷凍の?」

「そうよ。他に何があんのよ」

僕は彼女を見た。

彼女はサングラスを少しずらして僕の顔をまじまじと見ていた。

サングラスの隙間から見える彼女の目は大きくきらきらしていた。

睫毛が長く、ものすごく黒い。

「十七歳ってのは嘘だけど、イケテルってのは本当だな」と僕は言った。

彼女はふう、とため息をついてから「そんなおっさんくさいこと言わないでよ」と言った。



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