携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第二章
[B009]
僕は辺りを少しだけ見回して、それから腕時計を見た。
電話の相手が指定した時刻になっていた。
そして、彼女の声はあの電話の相手の声と似ているなと思った。
「君が電話してきた人?」
僕は彼女に訊いた。
「当たり前でしょ。他に誰がいんのよ」
「十七歳には見えない」
「そんなことはどうでもいいじゃないの。ああ、暑い。早く行きましょうよ」
「行くってどこへ?」
「どこかお茶できるとこよ。ずっとこんな殺人的な太陽の下にいるつもりなの?
こんなとこにいたら砂漠でひっくり返った象亀の気分になってきちゃうわ」
「象亀?」
「ひっくり返ったら一人では体勢を戻せないのよ。
あとはじりじりと太陽に焼かれてゆっくり死んでいくだけなのよ。ひどい話でしょ」
「へえ、よく知ってるねえ」
僕は間抜けなことを言っているな、と思いながらつぶやいた。
「そんなのはどうでもいいのよ。ええと、そうだ、あそこに行きましょう。
わたし、あそこのブラウニーサンデーが好きなのよ。これ覚えておいてね」
彼女は言いながら向かいのデパートの二階にあるカフェを指さし、僕の手をとり歩き出した。
僕は特に逆らう理由もなかったので、彼女に引かれるまま後についていった。
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