携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第二章
[B002]
電話のベルはいまだ鳴り続けていた。
家には僕一人しかいなかった。
元々この家は僕の母親の父親、つまり僕の祖父の物であったのだが、彼が亡くなってからは僕しか住んでいる者がいなかった。
母親は、今は銀座で営んでいる日本料理屋の二階を主な生活の場としており、この家にはたまにしか来なかった。
電話のベルは鳴り続けていたが、僕はしばらく立ち上がる気がせず、そのままにしておいた。
だが、ベルは十数回以上鳴り続けている。
仕方なく僕は立ち上がり、古くさい型の黒い電話機の前まで行った。
そして受話器を取った。
「遅いじゃない」
受話器の向こうで若い女の声がした。
声には聞き覚えがなかった。
「どなたですか?」
僕は言った。
言いながら相手の声の背後の音に耳をすました。
そこにがやがやとする電話をかける人々の声が聞こえた場合、大概がなんらかの営業や勧誘なのですぐに切ることにしていたのだ。
だが、女の声の背後にはなんの物音もしなかった。
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