携帯恋愛小説
『ノーベンバーレイン』
窪璃音/著
第一章
[A020]
「二十年前とは違うのよ。今のこの近代的なシステムの中ではいかさまはできないわ」
へえ、と僕は言った。
この時点では僕とは関係のない世界のことであると思った。
「あなたは学生なの?」
彼女が訊いてきた。
「いえ、今は違いますね。
実家が商売をしているので、それを手伝っているだけです」
「お金を貯めては旅行しているの?」
「そんなにしょっちゅう旅行しているわけではないんです。
今回は、たまたまあの友達がこっちに行くというんで同行したんです。
彼はカメラマンで先月までメキシコにいて、昨日、僕と合流したんです」
「じゃあ、一緒に来たんじゃないんだ」
「ええ。彼は明後日帰ってしまいます。僕は帰らないけど」
僕はそう言ってから田部を見た。
田部はなんだかつらそうな顔をしていた。
どうやら負けているようだった。
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