恋愛小説『ノーベンバーレイン
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立読みBESTランキングで四ヶ月間1位になった作品。
自費出版でありながら、その内容の濃さと深さに多く
の読者を得ている新しい恋愛小説です。

〈スイカヘッドブルース〉

 スイカヘッドと呼ばれる少年がいた。少年の頭はスイカだった。緑色に黒の縦じまが入っていた。

 スイカヘッドの初恋は、十二歳の時に起こった。相手は隣に引っ越してきた少女だった。少女も個性的なスイカヘッドに好意を持った。
 二人は長い時間、一緒に過ごした。
 天気の良い日は、公園に行き、緑の芝生に体を横たえ、透明な青を持つ空を臨んだ。二人は多くの話をした。
 未来のことや過去のことや、現在のことを。それはスイカヘッドにとっても、少女にとっても特別なロマンスだった。
 特別な奇蹟が起こした特別なロマンスだった。
 スイカヘッドは野球が好きだった。
 見るのもやるのも好きだった。
 スイカヘッドには野球の才能があった。
 スイカヘッドは野球に自分の未来をかけていた。弱点と思われる重い頭を、上手に振る独特のモーションはヒットを連発していた。
 あるとき、スイカヘッドは少女のためにホームランを打つことを約束した。
 それは少年野球の地区大会の決勝だった。
 相手のチームは、小学生とは思えない速い球を投げるピッチャーがいるおかげで、決勝まで勝ち進んできた。
 そのピッチャーの玉を打てるのはスイカヘッドだけだろうと言われていた。
 試合は真夏のある日、行われた。
 接戦だった。互いに攻めきれずに得点ができなかった。九回の裏、スイカヘッドに打席が回ってきた。
 それまで、スイカヘッドは敬遠により、三回歩かされていた。
 スイカヘッドはバットを持ち、バッターボックスの内側ぎりぎりまで体を寄せていた。
 その体勢はスイカヘッドのバッティングフォームを崩していた。
 二球、ボールは大きく外角にはずれた。スイカヘッドはじっと相手のピッチャーを見ていた。
 相手ピッチャーは、忸怩たる思いを表情に示していた。その思いと共に、勝負を欲する気持ちもそこにあった。
 三球目、ボールは内角に飛んできた。スイカヘッドは体を少しだけのけぞらせてそのボールを避けた。
 ストライクだった。
 ピッチャーはキャップの向こうで小さな笑みを浮かべていた。相手チームの監督は怒りながらなにやら叫んでいた。
 スイカヘッドは砂を払いながらバッティングフォームをとるとピッチャーをじっと見た。ピッチャーはゆっくりとしたモーションで振りかぶり、そして、投げた。
 死は勇猛さをもってスイカヘッドに向かってきた。
 確実にボールを捉えようと頭を大きく揺らしたスイカヘッドのヘルメットはずり落ちた。
 バットをすり抜けた硬いボールはスイカヘッドの頭を直撃した。縦縞の外殻は軽い音を立てて破裂した。
 赤い液体が飛散し、細かな破片が黄土色の地面に散らばった。
 スイカヘッドは倒れこんだ。
 全ての音が消えた瞬間だった。
 スイカヘッドは客席にいる少女を見た。
 太陽が靄のような雲の向こうで輝いていた。少女はスイカヘッドを見ていた。麦藁帽子の陰で少女の瞳は光っていた。
 陶器のように滑らかな肌にうっすらと汗をかいていた。
 柔らかな風が少女の長い髪を揺らし、白いワンピースを揺らしていた。
 スイカヘッドは少女の瞳を見続けていた。
 そこに、自身の終わりに対しての救いを求めた。
 死の近づきをスイカヘッドは感じていた。
 この時に続くそれまでの日々にきちんとした価値を見出さない限り、この死はずっと孤独なままであると感じていた。 
 スイカヘッドにとっての今までの日々は、少女に集約されていた。
 あの美しい少女に自分が存在したという事実を刻み込む事がスイカヘッドの最後の望みだった。
 少女はスイカヘッドを見続けていた。
 スイカヘッドも少女を見続けた。
 少女の瞳は、最初、悲劇に対して凍りついていた。
 スイカヘッドはその少女の瞳に満足だった。
 だが、数回のまばたきの後に、少女の瞳は異なる輝きを持った。スイカヘッドは素早くその変化に気がついた。
 今や、少女の瞳の輝きは、おいしそうな食べ物を目の前にした時に発する、あのある種の喜びを伴った輝きに似ていた。
 スイカヘッドは少女から目をそらし、かつて二人で見た、透明な青い空に思いをよせた。
 僕の死、僕の死について考えなくては……、とスイカヘッドは思ったけれど、彼の砕け散った頭では、それ以上は何も考える事ができなかった。
 熟したスイカの甘い匂いがあたり一面に漂っていた。

 ラララ
 スイカヘッドが最後に見たのは青い空
 高くて遠くにあった青い空
 誰かがその色をこう呼んだよ
 スイカヘッドブルー スイカヘッドブルー
 ラララ ラララ ラララララ



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小説「ノーベンバーレイン」

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